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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
翌日から、西坊城子爵家は慌ただしくも華やいだ雰囲気と賑やかな活気に包まれた。

この淑やかで愛らしいが、余りに大人しくはにかみ屋なゆえに夜会はもちろんお茶会に出ることも滅多になかった末娘の絢子が自ら進んで舞踏会に出ると言い出したからだ。

特に夫人の方子は我が事のように熱心に采配を振るい、絢子のドレスやアクセサリー、髪型、化粧などを侍女と打ち合わせし、ワルツのレッスンはわざわざ立ち合うほどに気合いを入れていた。

ダンス教師は方子の友人のつてでドイツ公使館の書記官夫人が選ばれた。
ワルツの名手で日本語も堪能。
女性ならば絢子も安心してレッスンに臨めるだろうとの配慮からだった。

…慣れぬダンスのレッスンにくたくたになり、絢子は中庭の長椅子に座り込んだ。
舞踏室の熱気から火照る頬を冷やしたかったのだ。

…ワルツ…てこんなに大変なのね…。

友人の雪子は、いつも優雅に軽やかに踊り、全く大変そうには見えなかった。

…雪子様は何をしてもお上手だもの。
馬術、テニス、ゴルフ、そしてダンスも。

…春馬様は何でも出来る雪子様をいつもご覧になっているでしょうに…。

絢子は途端に不安になる。

…こんな私と春馬様は踊って下さるのかしら…。

春馬は女性に大変人気がある。
舞踏会では彼と踊りたい女性が大勢待ち兼ねていることだろう。

…もしかしたら…。
絢子は考える。

…春馬様は恋人をお連れになるかもしれないし…。

沈み込む心のままぼんやり俯いていると、蔓薔薇の茂みから心配気な声が聞こえた。

「…絢子お嬢様。
こんな所でお座りになって…。
お風邪を召します」

振り向く先に佇むのは、書生の白戸だった。

「…白戸…」





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