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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
書生の白戸は濃紺の三つ揃いのスーツ姿であった。
いつもは白地の絣の着物に紺袴という和服でいるので珍しいことだ。

「…白戸…。
お出かけだったの?」

「旦那様のお供で国会議事堂まで参っておりました」
絢子はにっこりと笑った。
「白戸もいよいよ正式にお父様の秘書になるのね。
おめでとう」

白戸の端正な眉が寄せられる。
「…私は…このままお屋敷で書生をしながらお嬢様のお世話をさせていただきたいのですが…」

絢子は長い睫毛を瞬かせた。
「そんなの勿体ないわ。
白戸は成績優秀で賢いし気働きもするってお父様はいつも褒めていらっしゃるわ。
早くお父様の秘書としてお支えして差し上げて」

帝大入学と同時に屋敷に住み込み、絢子の家庭教師をしていた白戸は、もはや兄のような幼馴染のような気安い存在だ。
白戸にははきはきと臆することなく何でも話せる。

それには答えず、白戸は絢子のドレス姿を眩しげに見つめた。
「…ワルツの練習ですか?
ホテルカザマの夜会に行かれると伺いました」
「ええ。
…夜会は舞踏会なのですって。
外国人のお客様が多いからだそうよ。
お母様がダンスの先生を招いてくださったのだけれど…私、本当にダンスのセンスがないの…」
ダンスシューズから伸びた白い脚を撫でながらため息を吐く。
…やっぱり、春馬様と踊っていただくなんて無謀なのではないかしら…。

途方に暮れる絢子の前に、白戸の大きく男らしい手が差し出された。

「…私がお教えいたしましょう」

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