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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…ホテル・カザマの舞踏室がこれほどまでに広々としていて豪奢な造りだとは知らなかった。
絢子は入り口に足を踏み入れ、思わず眼を見張った。

…舞踏室の中はまるで西洋の大貴族の館のようだった。
大きなバカラのクリスタルのシャンデリアが天井に燦然と輝き、壁にはティッツィアーノの優雅な絵画が飾られている。
磨き上げられた床の大理石はマーブルカラーのトルコ石色だ。
外国に行ったことがない絢子には見るもの全て珍しく、初めてのものばかりだ。

ホテルの舞踏会というだけのことはあり、招待客の半数は煌びやかに着飾った外国人たちだ。
婦人たちから薫る香水は、舶来品らしく嗅いだことのないものだ。
談笑する合間に囁かれる言葉は英語のみならずフランス語、ドイツ語。
…そして、イタリア語らしきものも混ざっている。
まさに洗練された国際色豊かな大人の社交場であった。

絢子はすっかり怖気付き、母、方子の腕に縋りついた。

「…お母様…。
…やっぱり…私、帰ろうかしら…」

…こんな華やかな、外国人の賓客たちばかりの中で、到底ワルツを踊れるとは思えなかったのだ。
日本人の婦人や令嬢たちも皆、最新流行のドレスを身に付けている。
きっとダンスも達者なのに違いない。
絢子は益々自信を失っていった。

「何をおっしゃるやら…。
絢子さん、大紋様と踊っていただくのでしょう?
…ほら、ご覧あそばせ。絢子さん」

方子の白いレースの手袋の指先が指し示す方に、目を遣る。

「…あ…」

…バルコニーの入り口近く、一際華やかな雰囲気を纏った男女が談笑している。
辺りの令嬢たちが、彼らをちらちらと気にしているのが解る。

「…春馬様…」

絢子は思わず、吐息混じりの声を漏らした。



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