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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…大紋春馬は、そこに居た。
極上の黒い燕尾服を身に付け、ゆったりと談笑する様はまるでここの主のように悠然と堂々と…そして優雅に存在していた。

シャンパングラスを片手に楽しげに話しかけている相手は…こちらからは後ろ姿しか見えないが、春馬よりはやや小柄な、けれどすらりとした細身の美しいシルエットの青年のようだった。
同じように仕立ての良い黒燕尾服姿…上流階級の子弟に違いない。

…春馬様のお友だち…かしら。

「…素敵な方ね。大紋様」
母がうっとりしたように感想を漏らす。

「…ええ…」
それしか返答できないのは、久方ぶりに本人を近くで確認し、改めてその男への恋心が胸に熱く込み上げてきたからだ。

「あら!絢子さん!
絢子さん、こっちこっち!」

青年の陰からひょっこりと雪子が貌を覗かせ、絢子に気づき陽気に手を振って来た。

…雪子の声で、春馬とその傍らに立つ青年が絢子を振り返る。

絢子は思わず息を呑んだ。

「…あ…」

…振り返った青年が余りに美しく優美で、この世の者とは思えぬほどに端麗な輝くばかりの美貌の持ち主だったからだ。



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