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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「お母様…!」
「小母様!」

それまで若者たちの話を離れた場所で見守っていた方子がにこやかにゆっくりと歩み寄る。
…大貴族ではないが、名門子爵夫人の方子の歩く姿には疎かには出来ない高貴な雰囲気が漂っていた。

春馬と暁は西坊城子爵夫人方子に礼を尽くす為に彼女の前に進み、恭しくお辞儀をする。

二人は次々と方子の手を取り、その白い手袋の甲に敬愛のキスを落とし、挨拶をした。
年長の、子爵夫人には最大級の礼儀を表さなければならないからだ。

方子はにこやかに優しく微笑む。

「…大紋様、縣様、今宵は突然我が娘絢子がお邪魔いたしまして申し訳ありません。
特に大紋様には先日、絢子を屋敷までお送りいただいたのに、何のご挨拶もいたしませんで、大変失礼いたしました」

「小母様、お気になさらないで。
私が絢子さんをお誘いして遅くなったのですもの」
何度も西坊城家に遊びに来たことがある雪子は人懐っこく方子に話しかける。

この美人で聡明で活発な級友を気に入っている方子は親しげに雪子の手を取る。
雪子には絢子の姉たちに似た自信と華やかな雰囲気を感じるので、内気な絢子の友人で居てくれることが嬉しいのだ。

「雪子さん。
いつも絢子にお優しくしてくださり、本当にありがとうございます。
…先日の絢子は本当に楽しそうでしたわ。
馬術大会と…そして雪子さんのお兄様にお車でお送りいただいた…と。
それはもう、夢を見ているようなお顔をして幸せそうに…」
「…お母様…」
…これ以上、深い話をされると困ると絢子は焦る。
こんな公衆の面前で自分の恋心を暴露されるのは嫌だった。

俯く絢子を雪子はちらりと一瞥し、わざとはしゃいだ口調で方子に話しかけた。

「ねえ、小母様。
小母様だから思い切って申し上げますけれど、兄と絢子さん、お似合いだと思われませんか?
…実は兄にはうんざりするくらいたくさんの縁談が持ち込まれますの。
でも兄はちっともその気にならなくて…。
私も私とそりが合わない方がお嫁にいらっしゃるのは絶対に嫌。
…だから絢子さんが私のお義姉様になってくださったら最高なのですけれど」






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