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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
春馬がやや硬い声で雪子を制した。
「…雪子。やめなさい。 
絢子さんにも子爵夫人にも失礼だよ」

すぐさまにおっとりとした…けれど芯の通った方子の声が続いた。

「いいえ。少しも失礼ではありませんわ。
大紋様。
私は貴方のことをとても好ましく頼もしい素晴らしいお方と存じておりますのよ。
貴方と絢子に良きご縁が生まれれば、こんなに喜ばしいことはございませんわ」

…折しも、室内弦楽団が奏でる華やかなヨハン・シュトラウスの皇帝円舞曲が聴こえ始めた。
舞踏会はワルツの時間となったのだ。

「…西坊城子爵夫人…しかし私は…」
困惑したように、口を開いた春馬の言葉に重ねるように暁が朗らかな声で口火を切った。

「…春馬さん。
ぜひ、絢子さんとワルツを…。
こんなに可愛らしいお嬢様と踊れる機会はそうはありませんよ。
あとで後悔なさらぬように、踊るべきです」

「…暁…」
春馬の眉根が微かに寄せられる。
暁はその潤んだ黒眼勝ちの美しい瞳で絢子に優しく微笑んだ。

「絢子さん、春馬さんはワルツの名手です。
…どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」

方子が安堵したようにほっと息を吐き、暁に丁寧に一礼をする。
「縣様、感謝申し上げますわ」

雪子が暁に抱きついて喜びを露わにする。
「さすが暁様だわ!
お兄様のことは誰よりも分かっていらっしゃるものね!」

「…さあ、それはどうかな…。
けれど、今宵春馬さんとワルツを踊るのに相応しいお嬢様はきっと絢子さんだ」

暁の麗しい瞳が謎めいた表情で微笑んだ。

春馬は決心したかのように男らしい口唇を引き結ぶと、改めて恭しく絢子に手を差し伸べた。

「…私と、踊っていただけますか?
絢子さん」



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