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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…それから先の記憶が、絢子には殆どなかった。
バルコニーから駆け出した絢子は、従者として同行していた白戸にホールで遭遇した。

尋常ではない様子の絢子の腕を白戸はそっと掴んだ。
「お嬢様?
どうなさいました?
なぜここにいらっしゃるのですか?」
「…白戸…わたし…」
絢子は気を失うように白戸の胸に崩れ落ちた。

「お嬢様!お嬢様!」
必死で名を呼ぶ白戸に、譫言のように告げる。
「…おねがい…おうちに…おうちにつれていって…」

もう、ここには一秒たりとも居たくなかった。
羞恥心と絶望感…。
このまま、死んでしまいたいほどだった。

白戸に抱きかかえられるように車に乗り込み、絢子は帰宅した。
訳を聞いてもひたすら泣きじゃくる絢子に、方子はおろおろするばかりだった。
屋敷の大階段を登る気力もない絢子を白戸は軽々と抱き上げ、寝室に運んだ。
部屋に控えていた絢子付きの侍女があとを引き受けたが、白戸は心配そうにいつまでも戸口に佇んでいた。

絢子は夜着に着替えるのが精一杯で、食事も何もかも拒んだ。
そうして、人払いをすると泣きながら眠りに就いた。

…春馬様には、やはり愛する方がいらしたのだ。
その方を凄まじいほどに、熱く激しく愛しておられるのだ。
私などが春馬様のお心に存在する隙間もないほどに…。

…それでも…

絢子はチュールに覆われた天蓋をぼんやりと見上げる。

…それでも、まだ、私は春馬様が好き…。
好きなのだ。
どうしようもないほどに…。

男への苦しい思いが停めどなく溢れ出し、絢子はブランケットを頭から被り、啜り泣いた。



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