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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…お嬢様…。
ご退屈でしょう?
ご本をお持ちしました」

暫くして入れ替わりに入って来たのは、書生の白戸だった。
絣の着物に紺袴という姿は、恐らく今大学から帰宅したばかりなのだろう。

絢子は部屋着にガウンという姿…。
漸くベッドからは出て、窓辺の長椅子に力無く腰を下ろしていた。

「…白戸…」

白戸は絢子に穏やかに微笑む。
兄のような、教師のような、近しくも信頼できる男が現れ、絢子は少しほっとした。

「大学の帰りに港屋に寄りました。
夢二の新作詩集だそうです。
最近、女学生に大人気の本だそうですよ」

「…そう…。
…ありがとう…」

…竹久夢二は絢子のお気に入りの作家だ。
夢二の新作の歌集は必ず購入している。
それを知っていて買いに行ってくれたのだろう。

…けれど…

「…私、今は恋の歌は読みたくないわ…」
絢子は俯き、小さな声で呟いた。

「…お嬢様?」

「…だって…もう、恋なんて二度としないもの…」



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