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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「お嬢様はお美しいです」

強い意志を秘めた声が、静かに響いた。

「…白戸…」
振り返る先にあるのは、見慣れた控えめで端正な眼差しだ。

「お嬢様はお美しいです。
初めてお嬢様にお目にかかった日のことを、私は今もはっきりと覚えております。
音楽室でピアノを弾いておられたお嬢様は、穢れのない純白の白百合のようでした。
そうして、私をご覧になって少しはにかみながら無邪気に微笑んでくださいました。
…私はお嬢様が世界で一番お美しいと思います。
それにとてもお優しく慈悲深くていらっしゃる。
階下の者たちにも分け隔てなくお優しく接してくださる方は、ご姉妹の中でも絢子様だけだと、皆が申します。
お嬢様にお仕えできること…それが私の誇りなのです。
ですから、ご自分を卑下なさるのはおやめ下さい」

普段、感情を表に出さない白戸とは思えない熱の籠った言葉であった。

絢子は眼を見張り、男を見上げた。

「…白戸…」

「お嬢様。
どうかありのままのお嬢様でいらしてください。
意に染まぬご結婚など、決してなさらないでください。
こちらでお嬢様のお好きなようにご自由に暮らされたらよろしいのです。
…私は生涯、このお屋敷でお嬢様にお仕えする所存でおります」

…それはまるでプロポーズのような言葉だった。
けれど、男の真意を汲むには、絢子はまだ未熟すぎたし、想像力が及ばなかった。
白戸はあくまで父の書生で、絢子にとっては教師のような兄のような…家族に近い存在だったからだ。

…つまり、その言葉を正しく理解するには、相当の年月を要することになるのだった…。

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