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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…その夜、絢子はなかなか寝付けずにいた。
寝ても覚めても、春馬のことが頭から離れないからだろう。

もう諦めよう…。
春馬様には愛しいお方がいらっしゃるのだもの…。

頭では分かっているのに、忘れることが出来ない。
その苦しさが、絢子を安眠から遠ざけていた。
ため息を吐き、ホットミルクを頼もうと枕元の呼び鈴を鳴らそうとして…やめた。

自分の飲み物のために深夜にメイドや侍女を起こすのが憚られたからだ。

…ホットミルクくらい家庭科で習ったもの。
一人で淹れられるわ…。

絢子はガウンを羽織るとそっと起き出し、物音を立てないように静かに部屋を出た。

東翼の絢子の部屋から階下の厨房は遠い。
大階段を降り、階段室の扉の下に厨房はある。

…階段室の扉に手を掛けた時、廊下の突き当たりの居間から灯りが漏れているのが見えた。

密やかだが、両親が話す声も聞こえた。

…お父様がお帰りになったのだわ…。

大臣の職に就いている父は多忙で、毎夜帰宅が深夜に及ぶ。
けれども、居間で両親が話し込むのは珍しいことだった。
父は、帰宅するとすぐに書斎に引きこもり、仕事の続きをするか趣味の読書をするのが常だったからだ。

方子は帰宅する夫を毎夜きちんと出迎えるが、そのまま自分の私室に上がる。
居間で話をすることは、滅多になかった。

…何をお話しされているのかしら…。

ふと気になり、絢子は足音を立てないように忍び足で居間に近づいた。

…扉は微かに開いていた。
奥の長椅子に向かい合う両親の姿が見えた。
父はまだスーツ姿のままだった。

「それで、大紋様はなんと仰ったのですか?」

…その名前は、絢子の耳に不意に飛び込んで来た。
方子は珍しく焦れたように重ねて夫に尋ねる。

「貴方は大紋様と絢子さんとのご縁談のことを改めてお願いしてくださったのでしょう?」

驚きのあまり、声が出そうになり絢子は両手で口を押さえた。

西坊城子爵のしみじみした声が、続く。

「…ああ、是非に絢子との縁談をもう一度考えてもらえないかと頼んだよ。
私も兼ねてから春馬くんのような素晴らしい青年が絢子の婿になってくれたら…と考えていたからね」









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