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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「そうでございましょう?
私もそう思うのですよ。
…大紋様は貴族ではないけれど、由緒正しいお家柄ですし、財産もおありになるわ。
ご職業も堅実ですしね。
…何よりご本人の男振り、ご性格の良さやご聡明さが素晴らしいのです。
私のお友だちも皆、お嬢様を嫁がせたいと躍起になっておられますわ。
人気があるからと言って浮ついたところはおありにならないし、スキャンダルも伺ったことは一度もありません。
清廉潔白なお人柄かとお見受けいたしますわ。
…あなた、これ以上、絢子さんを嫁がせるのに相応しい殿方がいらっしゃるでしょうか?」

方子の熱弁を最後まで聞いたのち、西坊城子爵は口を開いた。

「私も同じことを考えていたから、そのように話したよ。
もう一度、絢子との縁談を考え直してもらえないかと…」

「どうでしたの?」

意気込んで尋ねる妻を静かに制するように子爵は首を振った。
「…勿体無いお話ですが、お受けするわけにはまいりませんときっぱり断られたよ。
…理由を尋ねたら、彼には愛する人がいるそうだ。
訳あって結婚することは出来ないが、終生独身のまま、その人と人生を共にしたいのだそうだよ」

絢子の身体から力が抜け、廊下に座り込みそうになるのを必死で堪えた。
…やっぱり…。

夫の答えに狼狽える方子の声が響いてきた。
「…どういうことですの?
そんな…終生独身を誓われるだなんて…。
お相手は?
…まさかどこぞの奥様か…或いは未亡人か…。
けれど、大紋様にそのようなお噂は聴いたことがございませんわ。
…ご結婚できないと言うことは…やんごとないご身分のお姫様なのでしょうか?」


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