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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…どちらの宮様かしら…。
今、五摂家の姫宮様方で大紋様に合う歳の頃の方はいらっしゃらないはずですけれど…」

詮索しようとする方子に、子爵は手を振る。

「やめなさい。方子。
だれでもいいじゃないか。
彼の秘密の恋人をあれこれ探るのは悪趣味だよ」

方子はむっとしたように細い眉を顰めた。
「なぜですの?
大切なことではありませんか。
お相手を知らなくては戦えませんわ」

妻の言葉に西坊城子爵は呆れたように眼を見張る。
「戦う…とは…方子…。
君は大紋くんに恋人が居ると知っても諦めないのかね?」

「ええ、もちろんですわ。
大紋様はこれ以上ないほどに絢子さんのお婿様に相応しい方です。
簡単に諦めるわけにはまいりません」

…何より…
方子は立ち上がり、夜景が広がっているであろう窓辺を見つめた。

「私は絢子さんの初恋を叶えて差し上げたいのです。
あの大人しくてはにかみ屋さんの絢子さんが初めて恋をしたのですよ?
何とか実らせて差し上げたいではないですか」

「…初恋…ね」

西坊城子爵は珍しく、やや冷たい口調で尋ねた。
「君は初恋を美化しすぎてはいないかね?」

「どういう意味ですの?」
夫の意外な言葉に、方子は怪訝そうに眉を顰めた。

「…初恋に囚われすぎていると、近くの大切なものも見えなくなるのではないかと思ってね」

方子は一笑に付した。

「何をおかしなことを仰っているの。
…とにかく、私は諦めませんわ。
ですから貴方もこれからも折に触れて大紋様を説得してくださいな…。
大紋様をお茶や晩餐にお招きするとか…いくらでも方法はありますから…」

…もう…充分だわ…。

これ以上、方子の不毛な話を聞きたくはなかった。

絢子は再び足音を潜め、両親の居間を後にした。


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