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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
春馬の家は青銅の門扉と鬱蒼と生い繁る樹々に囲まれていた。
それはさながら、秘密の恋を隠匿するかのように見えた。
…いや、秘密の恋が露見するのを防ぐというよりは、その恋人を大切に守りたいという春馬の強い意志と熱い愛が感じ取られて、絢子は感じたことのない嫉妬の感情に苦しくなる。
…木蓮と青銅の格子塀の隙間に貌を寄せ、中の様子を伺う。
「…こんなことをなさって…。
もし、旦那様や奥様に知られたら何と嘆かれるか…」
背後から白戸の諦めと微かな苛立ちの声が聞こえる。
「…しっ…黙って…。
…降りていらっしゃるわ…」
…家の前庭に無造作に停められた車のドアが開く。
…春馬様…!
濃紺の上質なスーツ姿…。
恐らくは仕事帰りだろう。
凛々しい横顔と上背がある逞しい立ち姿に見惚れる。
…と、同時に助手席のドアが開いた。
絢子は少し困惑した。
春馬がこのまま回り込み、助手席の扉を開けに来ると思っていたからだ。
紳士の春馬が女性に自分で車のドアを開けさせるはずはなかったからだ。
…そうして、その助手席からしなやかに降り立った人物の貌を見て、絢子はその意外さに思わず瞬きをした。
…春馬ほど長身ではないが、すらりとしたスタイルの良い若い青年の姿がそこにはあった。
チャコールグレーのジャケット…中はミルク色のニットだ。
…透き通るように白い肌はまるで白磁のようだ。
やや長めな艶やかな黒髪…。
優美な三日月眉…。
長く濃いまつ毛…。
黒眼勝ちの瞳は大きくしっとりと潤んでいる。
形の良い鼻梁。
可憐な口唇は桜色だ…。
遠目からでも思わず魅せられてしまうような、また、不思議な色香を纏う美しい青年…。
…あの方は…確か…。
絢子は記憶を手繰り寄せる。
絢子の心を読んだかのように、白戸が明瞭に伝える。
「…あの方は、縣男爵様のご次男の暁様ではありませんか?」
それはさながら、秘密の恋を隠匿するかのように見えた。
…いや、秘密の恋が露見するのを防ぐというよりは、その恋人を大切に守りたいという春馬の強い意志と熱い愛が感じ取られて、絢子は感じたことのない嫉妬の感情に苦しくなる。
…木蓮と青銅の格子塀の隙間に貌を寄せ、中の様子を伺う。
「…こんなことをなさって…。
もし、旦那様や奥様に知られたら何と嘆かれるか…」
背後から白戸の諦めと微かな苛立ちの声が聞こえる。
「…しっ…黙って…。
…降りていらっしゃるわ…」
…家の前庭に無造作に停められた車のドアが開く。
…春馬様…!
濃紺の上質なスーツ姿…。
恐らくは仕事帰りだろう。
凛々しい横顔と上背がある逞しい立ち姿に見惚れる。
…と、同時に助手席のドアが開いた。
絢子は少し困惑した。
春馬がこのまま回り込み、助手席の扉を開けに来ると思っていたからだ。
紳士の春馬が女性に自分で車のドアを開けさせるはずはなかったからだ。
…そうして、その助手席からしなやかに降り立った人物の貌を見て、絢子はその意外さに思わず瞬きをした。
…春馬ほど長身ではないが、すらりとしたスタイルの良い若い青年の姿がそこにはあった。
チャコールグレーのジャケット…中はミルク色のニットだ。
…透き通るように白い肌はまるで白磁のようだ。
やや長めな艶やかな黒髪…。
優美な三日月眉…。
長く濃いまつ毛…。
黒眼勝ちの瞳は大きくしっとりと潤んでいる。
形の良い鼻梁。
可憐な口唇は桜色だ…。
遠目からでも思わず魅せられてしまうような、また、不思議な色香を纏う美しい青年…。
…あの方は…確か…。
絢子は記憶を手繰り寄せる。
絢子の心を読んだかのように、白戸が明瞭に伝える。
「…あの方は、縣男爵様のご次男の暁様ではありませんか?」