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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…春…馬さ…」
「…暁…愛している…。
…君だけだ…」
甘い吐息の重なる音…生々しく濡れた喘ぎ声は暁だろうか…。
衣擦れの音…。
絢子は驚きの余り声も出なかった。

…目の前で繰り広げられている行為は、間違いなく恋人同士の接吻だ。

…男同士で、しかも相手は親友の弟…。
春馬は暁の家庭教師をしていたのだから、長年の仲なのだろうか。
しかも、彼は妹雪子の憧れている青年だ。

…いや、そんなことよりも…。

絢子が衝撃を受けたのは、そんなことではない。
衝撃的だったのは、暁に対する春馬の言葉、眼差し、仕草…そのすべてだ。

あの端正で常に紳士的で穏やかで冷静な春馬が、こんな風に礼儀も何もかもかなぐり捨てたかのように荒々しく、しかし情熱的に恋人に口づけするのだという事実に、絢子は打ちのめされたのだ。

春馬の口づけは、絢子が想像していた絵物語やお伽話の美しく優しいそれではなかった。

…野生的で野蛮的で官能的で…けれどそれは、狂おしいまでの愛の行為だ。
未熟で世間知らずな処女の絢子でも、空気感で伝わるものだ。

…春馬様の愛する方は、暁様なのだ…。
暁様は、こんなにも激しく狂おしく春馬様に愛されているのだ…。

身体が震えるほどの衝撃を、絢子は生まれて初めて受けたのだ。






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