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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…夢を見ていた…。

夢の中での春馬は優しかった。
絢子を愛情の眼差しで見つめ、愛を語ってくれた。

…春馬様…。
信じられない嬉しさに、彼の元に飛び込もうとした瞬間、その姿は跡形もなく消え去った。

…春馬様?春馬様…?
どこ?どこにいらっしゃるの?

慌てて辺りを見渡す。
遠く遠く離れた暗いトンネルの奥に、男の後ろ姿はあった。

…待って!春馬様!待ってください!
行かないで!
行かないでください!
絢子は泣きながら追いかける。
脚が泥沼に捉えられたかのように動けない。
必死で手を伸ばし、声を振り絞る。

…春馬様…
…行かないで…行かないで…。

『お嬢様…!お嬢様!
しっかりされてください!お嬢様!』

…切迫したその声は、白戸のようだった。

靄が掛かったような視野の中に、必死の形相の白戸がいた。

…しら…と…
…はるまさま…はるまさま…は…どこ…。

絢子の声に、白戸の端正な貌が微かに引き攣る。

『絢子さん!絢子さん!
しっかりして!お母様よ!』
方子が涙を流しながら、手を握る。

…はるまさま…はるまさまに…あいたい…。

このまま死んでしまうなら、一目でいいから恋しいひとに会いたい…。

『貴方!お願いです!
大紋様に…大紋様に来ていただいてください!
そうでないと、絢子さんはこのまま…儚くなってしまいますわ…』

『馬鹿なことを言うな。
気をしっかり持ちなさい。
母親の君がそんなことでどうする』

父親の西坊城子爵の声も酷く悲痛だ。

…ああ…私はもう、死んでしまうのかしら…。
眠り薬の量を間違えてしまったのかしら…。

…それならば…

絢子は震える口唇で、父親に懇願した。

『…お父様…お願い…はるまさまに…ひとめ…おあいしたい…』

西坊城子爵の貌がくしゃりと歪み、頷いたのを見た刹那、絢子は再び暗く深い眠りの沼に、堕ちて行ったのだ。

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