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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…絢子さん…絢子さん…」

…誰?私を呼ぶのは…。

絢子は暗い沼の底に、ひとり揺蕩う。
仰向けのまま、ぼんやりと水面を仰ぎ見る。
…ゆらゆら揺れる水面の上には眩しい陽の光が差し込んでいる。

…明るく、暖かな光…。
懐かしい、温かな世界…。

そちらに行きたい…。

思わず、手を伸ばす。

「…絢子さん。
僕ですよ。
大紋です」
よく通る美しいバリトン…。

…春馬…様…?

絢子はゆっくりと瞼を開く。

…眩しい光の中に居るのは…

「絢子さん…!気づかれましたか?
絢子さん!」

真剣に気遣わしげに絢子を見つめる、大紋春馬…その人だ。

「…はるま…さま…」

必死に伸ばした震える手は、温かく大きな手に力強く握りしめられた。

「絢子さん!」

…春馬様に…会えた…。
また、お会いできた…。
ここに…いらっしゃる…。
私のそばに…いらっしゃる…。

涙が溢れ出し、同時に心のうちが箍が外れたかのように流れ出す。

「…春馬様…ここにいて…ずっとここにいてください…。
…どこにもいかないで…いかないで…おねがい…」

…今だけ…
…今だけでいいから…
…ここにいて…

春馬の凛々しい眉が痛ましげに寄せられる。
けれど、その引き締まった口唇からは直ぐに優しい声が響いてきた。

「…何処にも行きません。
…ここにおりますよ。
ご安心ください、絢子さん…」



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