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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
方子の姿を探し、絢子は大階段を降り、一階に向かう。
日中は大抵私室の居間にいるはずなのだが、珍しく姿が見えなかったのだ。

玄関で行き合った家政婦に居場所を尋ねる。
「奥様はサンルームにいらっしゃいます。
…先ほど、縣男爵夫人様がお見えになられたのです」

絢子は訝しげに首を傾げる。
「縣男爵夫人?」
…そして、直ぐに合点が行く。
縣男爵夫人とは、大紋春馬の親友…縣礼也の生母・縣梁子だ。
つまり、庶子の暁の血のつながらない義母ということになる。

方子と縣男爵夫人は女学校時代の友人だったそうで、今までも時々、友人たちと一緒にお茶会や晩餐に招いたりしていたのだ。

夫の縣男爵とは折り合いが悪くだいぶ前から別居しており、今は横浜の洒落た洋館で悠々自適の一人暮らしを楽しんでいるらしい。
…美人ではあるが、派手な服装や濃い化粧、そして傲慢さが透けて見えるような表情が絢子は苦手で挨拶程度しか言葉を交わしたことはない。

方子は誰とでも平等に付き合う社交的な性格なのだが、縣男爵夫人と特別仲が良い訳ではない。
だから、少し不思議な気がしたのだ。

…何のご用なのかしら…。

…でも…

「…ではご挨拶に行ってみるわ。
縣男爵夫人はお母様の大切なご友人ですもの」

部屋に引き篭もってばかりの絢子が自分の友人に挨拶に出向いたとなれば方子はきっと喜ぶだろう。
方子には散々心配をかけてしまっているのだから、それくらいはしなくてはと、心に決める。

「それは良いお考えですわ。お嬢様。
奥様はきっとお喜びになられますよ」
家政婦も絢子が少しでも積極的に行動することに安堵しているようだ。

そうして絢子は家政婦に見送られ、サンルームのある東翼へと足を向けたのだ。





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