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あの海の果てまでも
第2章 新月の恋人たち
「暁は雨が苦手なんですよ。
昔から雨の日はすぐに頭痛を起こしていた。
…暁、今朝は大丈夫?」
額に手を当てようとされ、暁は慌てて手を振り払う。
「大丈夫ですってば」
恥ずかしさのあまり、少しむっとしてそっぽを向く。

英国に来てからの大紋は驚くほどに大胆だ。
人前でも構わず暁に触れたり、抱きしめようとする。
日本では、手を繋ぐことすら出来なかった。
恋人同士の頃は、わざわざ大紋が武蔵野に別邸を借り、そこで逢引きをしていた。
だから、こんなふうに他人がいる前で、大っぴらにスキンシップされることに、暁は慣れていないのだ。
それでつい、怒ったような表情をしてしまうのだ。

けれど大紋は、少しも気を悪くした様子もなく小さく笑い、熱い紅茶を味わう。
「ミセス・マクレガーの淹れた紅茶は最高に美味しいですね。
僕は今まで珈琲党だったのですが、倫敦に来てすっかり趣旨替えしましたよ。
ミセス・マクレガーのお陰です」

ミセス・マクレガーは血色の良い頬を更に赤く染め、目を輝かせた。
「まあ、ミスター・ダイモン!
嬉しいこと!
そうそう、事務所でお昼に食べていただくサンドイッチを包んでまいりますわね。
今日はフレンチフライと胡瓜のサンドイッチなんですのよ。
この二つは昔から英国人の大好物なんです」

ミセス・マクレガーは鼻歌混じりに、ダイニングを後にした。


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