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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
嗚咽を漏らす絢子の手に、温かな男の手が重なる。
その手が強く握られた。

「絢子さん。
絢子さんのせいではありません」

礼也は絢子をじっと見つめながら、落ち着かせるように穏やかに語り始めた。

「例え妨害があったにせよ、貴女を選んだのは春馬自身です。
貴女を妻に選び、家庭を築こうとした。
そのことは春馬の揺るぎない真実です。
…春馬の心の中に貴女への愛が、私はあったと思います。
そうでなくては、あの男がプロポーズする筈がない。
そんないい加減な男ではありません。
だから、貴女のお腹に二人の愛の結晶が生まれたのでしょう」

「…礼也様…」
涙で滲んで、目の前の端正な男の貌がよく見えない。
礼也の指が、優しく絢子の涙を拭う。

「絢子さん、貴女が苦しむ必要はないのです。
どんな理由があるにせよ、妻である貴女を捨て、暁と駆け落ちした春馬の行為は、決して許されることではありません。
…二人はこの罪を一生背負いながら、貴女に侘びながら生きていくべきなのですから」

厳しい言葉は、しかし二人への愛情の裏返しに聞こえた。

絢子は震える口唇をそっと開く。
「…礼也様。
私はここに居て良いのでしょうか?
春馬様は私に大紋家が所有するすべての財産を譲られました。
…けれど、私にそれを受け継ぐ権利があるのでしょうか?」
…決して妻に相応しくない…この私が…。

絢子はずっと考えていた苦悩を初めて口にした。


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