この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜

…縣鉱業の本拠地、九州飯塚の炭鉱で土砂崩れの大事故が起きた。
社長の礼也は巴里に出張中だった。
代わりに弟の暁が現地に駆けつけ、対応に追われた。
前代未聞の大事故に暁は不眠不休で働き続けていた。
被災した労働者たちの苛立ちや不安を容赦なくぶつけられ、疲弊も疲労も激しかった。
…そこに、春馬が顧問弁護士として現れ、暁の窮地を救った。
数年ぶりの、二人きりの再会…。
かつて深く愛し合っていた二人はあっけなく再び結ばれてしまったのだ。
事故のすべての処理を終えた翌日、二人は飯塚の炭鉱から、日本から姿を消した。
ことの顛末を大番頭に聞いた礼也は暫く茫然とし、絶句した。
二人の仲を全く知らなかった自分の愚かさに悔やんだ。
暁の苦悩に気づけなかった自分に忸怩たる思いを抱いた。
そして、身重の妻を捨てた親友が許せなかった。
「…私が日本に居たら…こんなことにはならなかった…。
絢子さんにはお詫びの言葉もありません」
苦しげに眼を伏せる礼也に、絢子はきっぱりと口を開いた。
「いいえ。それは違うと思います。
運命の悪戯ではありません。
お二人は強い運命で結ばれていたのです。
どんな障害があろうと、誰が立ちはだかろうと、いつしかお互いが惹き寄せられ、結ばれる…そんな運命に…。
それを思い知らされました。
私は、だから暁様を恨んでいません。
むしろ、春馬様を暁様にお返しできて今は安堵しています。
…私が、お二人の仲を壊したも同然なのですから…。
…ようやく罪滅ぼしができた…」
…そう。
あの方は、私の初恋を成就させてくれた…。
優しい慈悲の心で…。
おまけに愛おしい小さな生命も宿してくれた…。
「…私は…充分すぎるくらいに幸せですわ…」
その言葉は自然の発露だった。
だから、初めて心から笑えた。
春馬が去ってから、初めて絢子の心の雲が晴れたのだ。
社長の礼也は巴里に出張中だった。
代わりに弟の暁が現地に駆けつけ、対応に追われた。
前代未聞の大事故に暁は不眠不休で働き続けていた。
被災した労働者たちの苛立ちや不安を容赦なくぶつけられ、疲弊も疲労も激しかった。
…そこに、春馬が顧問弁護士として現れ、暁の窮地を救った。
数年ぶりの、二人きりの再会…。
かつて深く愛し合っていた二人はあっけなく再び結ばれてしまったのだ。
事故のすべての処理を終えた翌日、二人は飯塚の炭鉱から、日本から姿を消した。
ことの顛末を大番頭に聞いた礼也は暫く茫然とし、絶句した。
二人の仲を全く知らなかった自分の愚かさに悔やんだ。
暁の苦悩に気づけなかった自分に忸怩たる思いを抱いた。
そして、身重の妻を捨てた親友が許せなかった。
「…私が日本に居たら…こんなことにはならなかった…。
絢子さんにはお詫びの言葉もありません」
苦しげに眼を伏せる礼也に、絢子はきっぱりと口を開いた。
「いいえ。それは違うと思います。
運命の悪戯ではありません。
お二人は強い運命で結ばれていたのです。
どんな障害があろうと、誰が立ちはだかろうと、いつしかお互いが惹き寄せられ、結ばれる…そんな運命に…。
それを思い知らされました。
私は、だから暁様を恨んでいません。
むしろ、春馬様を暁様にお返しできて今は安堵しています。
…私が、お二人の仲を壊したも同然なのですから…。
…ようやく罪滅ぼしができた…」
…そう。
あの方は、私の初恋を成就させてくれた…。
優しい慈悲の心で…。
おまけに愛おしい小さな生命も宿してくれた…。
「…私は…充分すぎるくらいに幸せですわ…」
その言葉は自然の発露だった。
だから、初めて心から笑えた。
春馬が去ってから、初めて絢子の心の雲が晴れたのだ。

