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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
客間に通された礼也は、さり気なく室内を見渡す。
…見慣れた趣味の良い絵画や調度品はきちんと輝きを放ち、よく管理されているのが伺えた。
もちろん部屋は清潔そのもので塵ひとつ落ちてはいない。
廊下からは志麻の指示に機敏に働くメイドたちが行き交う音が微かに聴こえる。
主人が去った屋敷に、使用人たちの不安や不満の色は全くない。
かつて春馬が居た時と同じように礼儀正しく来客に応対し、この屋敷に誇りを持って仕えている様子が伝わってきた。
…それもこれも、執事の彼が大変に有能なのだろう。
室内の洋燈を灯す白戸のすらりとした黒燕尾服の後ろ姿を見る。
いや、有能なのはもちろんのこと、大紋家に敬意を払い、女主人となった絢子にこの上ない忠誠を誓っているのだ。
つまり、彼は絢子を護るため日夜この屋敷で働いているのだ。
礼也は長椅子に腰掛け、白戸に尋ねる。
「西坊城子爵ご夫妻にはご連絡を差し上げたのか?」
西坊城子爵夫妻はことのほか、娘の絢子を溺愛しているようだった。
すぐにでも駆けつけるのだろうと思っていた。
…対面したら、まずは詫びなくてはならないと心の準備をする。
春馬と暁が駆け落ちして、まだ夫妻に会ってはいなかった。
「はい。
生憎、旦那様と大奥様はただいま鹿児島のご分家のご法事に行かれておりまして…。
電報を打ちましたが、こちらにお着きになるのは早くても明日の晩かと…」
「そうか。
西坊城子爵は鹿児島の方だったね」
「はい。旦那様は遠縁のご出身で西坊城家に婿養子にお入りになられましたので、今はたまにお帰りになるくらいですが…」
西坊城家の内情に詳しいのは、彼がずっと子爵に仕えていたからだろう。
礼也はふとこの端正で忠誠心に厚い執事に興味を持った。
「君はいくつから西坊城家に仕えているの?
…今は大紋家の執事だけれど、以前は子爵の書生をしていたと聞いたよ」
…見慣れた趣味の良い絵画や調度品はきちんと輝きを放ち、よく管理されているのが伺えた。
もちろん部屋は清潔そのもので塵ひとつ落ちてはいない。
廊下からは志麻の指示に機敏に働くメイドたちが行き交う音が微かに聴こえる。
主人が去った屋敷に、使用人たちの不安や不満の色は全くない。
かつて春馬が居た時と同じように礼儀正しく来客に応対し、この屋敷に誇りを持って仕えている様子が伝わってきた。
…それもこれも、執事の彼が大変に有能なのだろう。
室内の洋燈を灯す白戸のすらりとした黒燕尾服の後ろ姿を見る。
いや、有能なのはもちろんのこと、大紋家に敬意を払い、女主人となった絢子にこの上ない忠誠を誓っているのだ。
つまり、彼は絢子を護るため日夜この屋敷で働いているのだ。
礼也は長椅子に腰掛け、白戸に尋ねる。
「西坊城子爵ご夫妻にはご連絡を差し上げたのか?」
西坊城子爵夫妻はことのほか、娘の絢子を溺愛しているようだった。
すぐにでも駆けつけるのだろうと思っていた。
…対面したら、まずは詫びなくてはならないと心の準備をする。
春馬と暁が駆け落ちして、まだ夫妻に会ってはいなかった。
「はい。
生憎、旦那様と大奥様はただいま鹿児島のご分家のご法事に行かれておりまして…。
電報を打ちましたが、こちらにお着きになるのは早くても明日の晩かと…」
「そうか。
西坊城子爵は鹿児島の方だったね」
「はい。旦那様は遠縁のご出身で西坊城家に婿養子にお入りになられましたので、今はたまにお帰りになるくらいですが…」
西坊城家の内情に詳しいのは、彼がずっと子爵に仕えていたからだろう。
礼也はふとこの端正で忠誠心に厚い執事に興味を持った。
「君はいくつから西坊城家に仕えているの?
…今は大紋家の執事だけれど、以前は子爵の書生をしていたと聞いたよ」