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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
「…縣男爵様…」

…変わったひとだ。
白戸は感心した。
貴族とは言えそれらは全て一括りには出来ない。
様々な出自や家柄があることは白戸も承知している。

例えば西坊城家は大貴族ではないが、公家の流れを汲む名門の子爵家だ。
一方で、縣男爵家は新興貴族に分類される。
初代が炭鉱夫出身だということも社交界ではあまりにも有名な話であった。
上流階級の貴族たちから初代に与えられた「炭鉱王」という称号は、明らかに巨万の富を成した彼へのやっかみと侮蔑を含んだものだった。
文盲に近かったという彼の経歴も、冷ややかな嘲笑を生んだのだろう。

けれど、それらを孫の当主自ら詳らかにするなど、あり得ないことだった。
成り上がりの爵位を持つものはなんとかしてそのことを隠そうとしたり、虚偽の歴史を語ろうとするからだ。

けれど、縣礼也はまるで愉快な物語を紐解くかのように朗らかに白戸に語ったのだ。
寧ろ、おおよそ貴族には似つかわしくない祖父を誇りに思っていると告げたのだ。
その様は実に堂々としていて、礼也に名門貴族ですら持ち得ない鷹揚な風格すら与えていた。

「…貴方様のような方を、真の貴族というのでしょうね」

白戸は本心から、そう思ったのだ。

「…それでは、今宵は男爵様と夜語りとまいりますか。
…けれど、それは一睡の夢…。
夜が明けましたら、私がお話ししたことなどお忘れくださいませ。
もちろん、男爵様もご同様に…。
一睡の夢と思し召して、何なりとお話しくださいませ」

…そう、夜は長い。
そして、長い人生の中で、こんな不思議な夜があっても良いのではないだろうか…。

白戸は新しい薪を暖炉に焚べるべく、ゆっくりと踵を返した。



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