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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
白戸が長野の片田舎から西坊城子爵の書生として屋敷に住み込むようになったのは、十八歳になった春のことだった。

白戸の家は元は代々下級武士の家柄で、決して卑しくはなかったが、プライドの高い父親は仕事が続かず、母親が商いをして家族を養っている状態だった。
村一番の秀才で松本の師範学校に特待生で進学していた白戸に帝大に合格することを条件に西坊城子爵の書生として住み込む話が舞い込んだのは、卒業の前の年の秋のことだった。

白戸の遠縁の叔父が昔から東京で貴族に執事として仕えていたことは村では有名な話だった。
こんな田舎から、格段の出世だと村人に崇められていたことも。

叔父は独身で子どもがいないことから、親戚筋の白戸を何かと目にかけていて、この話を持ちかけたのだ。

『お前が秀才なのは承知している。
旦那様は内務大臣を務められているのだが、これからお側で役に立つ賢い若い秘書を探しておられる。
お前、まずは書生としてお屋敷で働いてみないか?』

師範学校を出たら田舎の小学校の教員になるしかなかった白戸にとって、東京で書生として働きながら帝大に通えるなど、夢のような話だ。

提示された給金も高額なものだった。
この給金があれば、毎月母親にたくさん仕送りが出来る。
白戸は二つ返事で承諾した。



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