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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
じっと見つめる白戸にきまり悪くなったのか、少女は透き通るように白い頬を染めて再び夫人の長いスカートに貌を埋めてしまった。

『まあまあ、絢子さんたら…。
いつまでも恥ずかしがり屋さんですこと…。
…来年は新しい学校に通うことになるのに、困りましたわねえ』
夫人は言葉ほどには困っていない様子で、少女の髪を優しく撫でる。

…奥様は大人しく内気な三女の絢子様をことのほか可愛がっておられる。
旦那様もだがね。
上のお嬢様方とはかなり歳が離れておられるから、可愛くて仕方ないのだろうね。

初日にそう教えてくれたのは、執事でもある叔父だ。

『絢子は来年、私の友人が理事長をしている星南女学院の編入試験を受ける。
そんな訳で、白戸には絢子の勉強をしっかり見てもらいたいのだ』

『…かしこまりました。旦那様』

白戸は恭しく頭を下げ、小さな愛らしい令嬢を怖がらせないようにゆっくり近づき、跪く。

『絢子様。
白戸尊文と申します。
これからどうぞよろしくお願いいたします。
この通りの田舎者ですが、精一杯努めさせていただきますので、何なりとお申し付け下さい』

絢子がこわごわと貌を覗かせる。
…小さな貌に品良く整う目鼻立ちは人目を惹く華やかなものではない。
どことなく寂しげな貌立ちとも言えた。
けれど、その瞳はどきりとするほどに澄み切っていて胸を掴まれるほどに美しかった。
そして、それは穢れのない谷間の白百合のような清らかさだったのだ。

『…西坊城絢子です…。
よろしくお願いします…』
小さな囁くような声が白戸の耳を捉える。

その穢れを知らぬ美しい瞳と視線が合う。
絢子は微かに、恥ずかしそうに微笑んだ。

…なんて可愛らしい方なんだ…。

その瞬間、白戸は絢子に恋をしたのだった。



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