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あの海の果てまでも
第7章 秋桜の涙 〜新たなる夜明けへ〜
礼也の脳裏にあの日の記憶が甦る。
…五月の北白川伯爵邸の英国式庭園はまさに今を盛りの馨しくも美しいイングリッシュローズが百花繚乱の如く咲き誇っていた。
英国の貴族の優雅なカントリーハウスに比べても全く遜色のない見事な庭園に咲く絵画のような薔薇…。
それは美意識の高い伯爵の芸術的産物だ。
けれど、その薔薇も色褪せてしまうのではないかと思うほどに、その少女は美しく可憐であった。
礼也は、挨拶をするのも忘れ、ただその少女を見つめ続けた。
伯爵の腕に軽々と抱き上げられた白いドレスの少女…。
…黒く艶やかな絹糸のような長い髪、透き通るように白く肌理の細かな肌、既に完成された端麗過ぎる麗しい目鼻立ち…。
分けても、その黒々とした夜の湖を思わせる神秘的な瞳は、とても六歳の幼女とは思えなかった。
長い睫毛の下から、少女は恥ずかしそうに礼也を見つめ返した。
そのひとこそが、北白川梨央…礼也が後見を任され、そして彼の未来の婚約者であった。
『…さあ、梨央。
ハンサムなお前の王子様にご挨拶をなさい。
これからは、彼がお前を護ってくれるのだよ』
北白川伯爵が艶めいた笑みを浮かべ、少女を促した。
…少女…北白川梨央は、ふわりと天使のような無垢な微笑みを一瞬だけ浮かべ…再び恥ずかしそうに伯爵の燕尾服の胸元に貌を伏せたのだった。
…五月の北白川伯爵邸の英国式庭園はまさに今を盛りの馨しくも美しいイングリッシュローズが百花繚乱の如く咲き誇っていた。
英国の貴族の優雅なカントリーハウスに比べても全く遜色のない見事な庭園に咲く絵画のような薔薇…。
それは美意識の高い伯爵の芸術的産物だ。
けれど、その薔薇も色褪せてしまうのではないかと思うほどに、その少女は美しく可憐であった。
礼也は、挨拶をするのも忘れ、ただその少女を見つめ続けた。
伯爵の腕に軽々と抱き上げられた白いドレスの少女…。
…黒く艶やかな絹糸のような長い髪、透き通るように白く肌理の細かな肌、既に完成された端麗過ぎる麗しい目鼻立ち…。
分けても、その黒々とした夜の湖を思わせる神秘的な瞳は、とても六歳の幼女とは思えなかった。
長い睫毛の下から、少女は恥ずかしそうに礼也を見つめ返した。
そのひとこそが、北白川梨央…礼也が後見を任され、そして彼の未来の婚約者であった。
『…さあ、梨央。
ハンサムなお前の王子様にご挨拶をなさい。
これからは、彼がお前を護ってくれるのだよ』
北白川伯爵が艶めいた笑みを浮かべ、少女を促した。
…少女…北白川梨央は、ふわりと天使のような無垢な微笑みを一瞬だけ浮かべ…再び恥ずかしそうに伯爵の燕尾服の胸元に貌を伏せたのだった。