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あの海の果てまでも
第2章 新月の恋人たち
…やっぱり…来ない…か…。
そうだ。
手紙など、来るはずもない。

暁はぼんやりと、玄関ポーチからテラスハウスの専用ガーデンにゆっくりと歩いた。
ここはランク2に該当する建物なので、バッグヤードに専用庭がある。
三階建てのこのテラスハウスは、どの窓からも専用庭が見渡せるように建築されているのだ。
庭に拘りがある英国人ならではの構造なのだ。

暁は深緑色のベンチに腰を下ろし、背後に植っているブルーベリーの樹を見上げた。

ブルーベリーは夏になると甘い果実をその樹に実らせ、そのまま食べたりジャムにしたりする。
秋はその葉が紅葉し、見た目にも楽しめる。
果実を収穫できる樹木ということで、テラスハウスの庭には人気なのだそうだ。

…ブルーベリーの樹は、縣の屋敷のキッチンガーデンにもあった…。
暁がまだ屋敷に引き取られたばかりの頃、緊張している暁の手を引き、礼也がキッチンガーデンに連れて行ってくれたのだ。

『暁。ブルーベリーの実だ。
甘酸っぱくて美味しいよ』
…やや、声を顰める。
『…時々、摘み食いに来てもいいぞ。
私も小さな時によくやって、料理長に叱られた』
そう言って笑いながら、暁の口に甘い赤紫色の果実を優しく押し込んだ。

「…兄さん…!」
ここでは…特に大紋の前では、決して口にしないその名前を小さく呼んでみる。
その途端、暁の胸はずきりと痛んだ。

…来るはずのない手紙…。
けれど、毎日待ち続けてしまう手紙…。
それは、最愛の兄礼也からの手紙だった。





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