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あの海の果てまでも
第2章 新月の恋人たち
暁ははっと声の主を振り返る。

…すらりとした長身。
長く艶やかな黒髪は紫色の麻紐で束ね、背中に垂らしている。
その細身のしなやかな身体に纏うのは、繊細で優美な刺繍が施された美しい絹の古代紫の長袍だ。
その下には白い細身のチャイナパンツ、白い素足にはビーズで彩られた黒いサテンシューズを履いていた。

驚いたのは、その貌だった。
高級な白磁より白いその貌は、まるで精巧に作られた人形のように端正に整っていた。
透き通るような白い肌はきめ細やかで、形の良い口唇は紅を差したかのように紅く、艶めいていた。
その背の高さと、声の落ち着きがなければ、美しい女性かと見紛うほどだ。

…中国の…ひとかな…。
おずおずと見上げる暁に、その美貌の男はにっこりと笑い掛けた。

「日本の方ですか?」
…それは、とても流暢な日本語であった。

暁は眼を見張り、頷いた。
「は、はい。日本人です」
「やはり。
お貌立ちの優美さと清楚な雰囲気からそうかな…と思いました。
…よろしければ、お茶を飲んで行かれませんか?」
美しい男の白い手が、舞うように店内の奥を差し示す。

「…お茶…?」

どぎまぎする暁に、男は頷いた。
「ここはティールームなのです。
…中国風に言うと、茶房。
フランス風に言うとカフェ。
日本風に言うと、喫茶店…ですかね?」

すらすらと流れてくる懐かしい日本語に、嬉しくなる。
それに喫茶店…と聴き、俄然暁の興味が膨らんだ。

「…茶房…ですか…」
中国の喫茶店は入ったことがない。
倫敦にある中国の喫茶店…。
…どんな風なのだろう。

やや緊張している暁の気持ちを察したかのように、男は穏やかに礼儀正しく、挨拶をしてくれた。

「私はここ、春風茶房の店主、朱浩藍(ジュ・ハオラン)と申します。
…さあ、お入り下さい。お美しいターレン。
鄙びたさもないところですが、まずは美味しいお茶を一服差し上げましょう」

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