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あの海の果てまでも
第2章 新月の恋人たち
暫くして、木製の茶盤を手に朱は現れた。
…どうやら、中国茶の茶器一式のようだ。
茶盤の上には茶壷、茶杯、小さな茶碗のようなもの、他にも暁には初めて目にする茶道具が載せられていた。
「中国茶を召し上がったことは?」
朱は音も立てずにしなやかに暁の前に座り、手際良く茶道具を広げる。
「初めてです。
…実は僕は、日本で喫茶店やレストランを開いていたことがあるんですが、お恥ずかしながら中国のお茶は全く不勉強で…」
はにかみながら答えると、朱が美しい切長の一重の瞳を見開いた。
「日本で喫茶店やレストランを?
それは凄いですね。
まだお若いのに」
暁は慌てて首を振る。
「いいえ。凄くなんてないです。
…兄さ…兄の…会社を手伝っていただけですから…」
兄…と口にした途端、胸がずきりと痛んだ。
…兄さん…今頃、どうしているだろう…。
忙しいひとだもの。
僕のことなんか…もうとうに忘れている…かな…。
そう考えると、涙が溢れそうになる。
思わず、俯いてしまう。
そうでもしないと、涙が零れ落ちそうだからだ。
黙り込んだ暁を、朱は暫く静かに見守り…やがてそっと声を掛けた。
「…お客様のお名前を伺ってもよろしいですか?
私はね、ここにいらした方は皆、私の大切なお友達…と思ってお茶を淹れて差し上げているのですよ」
その温かな言葉に、暁はゆっくり瞳を上げる。
「…暁です。
縣暁…」
朱の墨を流したように黒い瞳が、煌めいた。
「暁…?
中国ではシャオと呼びます。
とても綺麗なお名前ですね。
…では、暁さん。
今の貴方にぴったりなお茶をお淹れしますね」
そう言って朱は、白磁の茶罐の紅色の紐を白く美しい手で器用に解いていった。
…どうやら、中国茶の茶器一式のようだ。
茶盤の上には茶壷、茶杯、小さな茶碗のようなもの、他にも暁には初めて目にする茶道具が載せられていた。
「中国茶を召し上がったことは?」
朱は音も立てずにしなやかに暁の前に座り、手際良く茶道具を広げる。
「初めてです。
…実は僕は、日本で喫茶店やレストランを開いていたことがあるんですが、お恥ずかしながら中国のお茶は全く不勉強で…」
はにかみながら答えると、朱が美しい切長の一重の瞳を見開いた。
「日本で喫茶店やレストランを?
それは凄いですね。
まだお若いのに」
暁は慌てて首を振る。
「いいえ。凄くなんてないです。
…兄さ…兄の…会社を手伝っていただけですから…」
兄…と口にした途端、胸がずきりと痛んだ。
…兄さん…今頃、どうしているだろう…。
忙しいひとだもの。
僕のことなんか…もうとうに忘れている…かな…。
そう考えると、涙が溢れそうになる。
思わず、俯いてしまう。
そうでもしないと、涙が零れ落ちそうだからだ。
黙り込んだ暁を、朱は暫く静かに見守り…やがてそっと声を掛けた。
「…お客様のお名前を伺ってもよろしいですか?
私はね、ここにいらした方は皆、私の大切なお友達…と思ってお茶を淹れて差し上げているのですよ」
その温かな言葉に、暁はゆっくり瞳を上げる。
「…暁です。
縣暁…」
朱の墨を流したように黒い瞳が、煌めいた。
「暁…?
中国ではシャオと呼びます。
とても綺麗なお名前ですね。
…では、暁さん。
今の貴方にぴったりなお茶をお淹れしますね」
そう言って朱は、白磁の茶罐の紅色の紐を白く美しい手で器用に解いていった。