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あの海の果てまでも
第2章 新月の恋人たち
「…さて、中国茶が日本茶と異なる点は香りをじっくりと楽しむことでしょうか。
お茶は飲むだけのものではありません。
お茶を飲む前の香りを楽しむのも中国茶ならではなのです。
…花の香りやバニラやフルーツの香り…。
中国にはそんなお茶もあるのですよ。
何しろ、その種類は五千とも、それ以上とも云われていますからね」

「そんなに!?」
暁は眼を丸くする。
「ええ。
私もまだ実際目にして、手にしているのはその内の数百程度です。
中国の秘境や奥地にはまだ見ぬ新種の茶葉があるのですよ」

…さて…と、朱は茶壷の上から静かに熱湯を注ぎ掛けた。
溢れた湯は、茶盤の桟の下にゆったりと流れてゆく。

「茶器が熱ければ熱いほど、お茶の香りが感じられるのです。
ですから、茶壷を温めるのですよ」
「…へえ…」
次に朱は茶壷から、背の高い白磁の杯にお茶を注いだ。
「これは聞香杯です。
細長い杯の方が香りが逃げずによく感じられるので、形が違うのです」
お茶は丁寧に隣の浅い白磁の杯に移される。
それは、品茗杯というのだそうだ。

「…まずはこちらの聞香杯に残った香りをお楽しみ下さい。
杯の温度の変化によっても香りは変わっていくのです」

空の聞香杯を手渡される。
暁はそっと香りを嗅ぐ。
「…あ…」
思わず声を上げた。
…この香り…。以前嗅いだことがある。
懐かしい、香りだった。

「…では、お茶をお飲み下さい」
朱に勧められるままに、品茗杯に満たされた琥珀色のお茶を口に含む。

「…あ…これ…」
…水蜜桃を彷彿させる甘い香り…。
どこか、紅茶のような香りもする…。
胸の奥がじんわり温まり…同時に、その胸が締め付けられたように疼いた。

…このお茶を、僕は飲んだことがある…。

朱が静かに告げる。
「東方美人という名のお茶です。
青茶と呼ばれるお茶の中では最も発酵度が高いお茶です。
良質なダージリンのような芳醇な香りが特徴です」

…そうだ…。
東方美人…。
誰かが、そう教えてくれた…。 

記憶の彼方から、懐かしい優しい声が聞こえて来た。

『…暁。眠れないか?
こちらにおいで。
私が取って置きのお茶を淹れてあげよう。
…中国人の友人にもらったんだ。
東方美人というお茶だ。
とても良い香りがするのだよ。
一緒に飲もうね』

「…兄さん…!」

暁は杯を握りしめ、小さく叫んだ。







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