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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
…不意に強い風が吹いた。
幌がはためき、大きく捲れ上がる。
一斉に白い花弁が花吹雪のように吹き込み、浩藍の髪に降り注いた。
『…あ…』
庭園を舞う白い花に浩藍は眼を奪われた。
『…綺麗な花ですね』

『山査子の花だよ』
『さんざし…?』
『そう。山楂。シャンザ。
薔薇科の植物で、紅く丸い実が成る。
実は甘酸っぱくて美味しくて身体にも良いから漢方としても使われる。
でもやはり有名なのは、山査子の飴掛けだな。
長い串に刺して飴掛けにした紅いお菓子を見たことはない?』
『…いいえ…』
横浜に住んではいたが、中華街に行ったことはない。

『中国の子どもには一番馴染みのお菓子だ。
今度、上海の屋台街に食べに行こう』
…そう言いながら、佑炎は引き寄せられるように浩藍の艶やかな長い黒髪に手を伸ばす。

『…山査子の花弁が付いている…』
遠慮勝ちな指先が、浩藍の髪に触れる。

山査子の花弁を取りながら、彼は切なげなため息を吐いた。

『…綺麗な髪だね…』

…微かに触れた佑炎の指先は、思わぬ熱を帯びていて、それはなかなか去らなかったのだ…。




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