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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
初めて通った学校は、新鮮だった。
ジャンヌダルクスクールはフランス租界にある少人数の…ある意味特殊な私学だった。
西洋人の子どもが大半だが、事業で大成功した中国人の子弟もかなりいた。
第三帝国の台頭にヨーロッパ大陸全体が次第にきな臭く、大戦の気配が濃くなっていた時世を反映し、ユダヤ系の富裕層や芸術家たちがフランス租界に移民を始めていた頃だった。
フランス租界では旅券が必要なかったからだ。
多民族が安全地帯に逃げ込むように、この租界に自由を求めて押し寄せていたのだ。

浩藍は、北京語も上手くなり、学校にもフランス租界にも、そして朱の屋敷の生活にも馴染んできた。
何故だか分からないが、髪は決して切らずに伸ばすように父親に厳しく言いつけられていたので、その艶やかな黒髪は背中を覆うほどに豊かに美しく伸びていた。

また、学校にいる間は白い制服姿だが、屋敷に帰ると必ず漢服…それも繻子の紅色や朱鷺色、藤色の優美な裾の長い漢服で過ごすようにと父親に言い渡されていたのだ。
その服は、身分の高い年頃の娘が身に纏うような嫋やかな女性的なものだった。
浩藍は最初は困惑したが、しきたりのようなものなのだろう…と特に反発せずに身に付けていた。

父親の永明はたまさか藍を見にやってきた。
そうして、浩藍の容姿や全身をじっくりと観察するかのように冷静に見渡すと、語学の勉強は疎かにしていないか、礼儀作法やダンスのレッスンに抜かりはないかと淡々と尋ね、浩藍が頷くと、そのまま踵を返し去って行くのだった。

『お父様は美しく賢い藍がご自慢なんだろうね。
…よく似合うよ。藍…』
佑炎は相変わらず優しく…いや、その優しさや浩藍に対する過保護ぶりは年々と増すばかりだった。

本来なら学校卒業後は英国の音楽学校に留学する筈だったが
『藍が心配で行く気になれないよ。
…お前がもう少し大きくなってから留学するよ』
と、延期していたのだ。
佑炎は心強く頼りになる兄だったから、浩藍はほっとしつつも、兄の人生を自分が左右して良いのか、不安に駆られた。

『良いんだよ。僕がお前の傍にいたいのだから…』
『…兄さん…』

…その熱い眼差しと言葉は、肉親の慈愛を超えていた。
けれど浩藍は、そのことに気づかない振りをしていた。
…そうしなくてはならないと、自らを戒めていたのだ。

…自分では、無意識のままに…。

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