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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
…やがて、浩藍は十四歳…中国の数え年では十五歳になった。
小柄だった背はすらりと伸び、手足は長く、小さく透き通るような白い貌は更に端麗に整い…まるで天女のような優美さだと、学校でもフランス租界でも評判となっていた。
背を覆う黒髪は艶やかな絹糸のようで、柔らかな曲線を描く柳眉、切長で涼やかな瞳、形の良い鼻梁、口唇は山査子の果実のように匂い立つ瑞々しさを湛えている…。
…それらは、兄の佑炎がうっとりと唄うように、浩藍の美貌を褒め称える言葉であった。
佑炎は相変わらず浩藍に優しく、まるで恋人のように甘やかに溺愛していた。
同時に、いよいよ英国留学への日取りも決まり、彼は憂いを秘めた表情をするようになった。
『藍を置いてゆきたくないな…。
藍も来ないか?
お父様には僕から話すよ』
『…でも…』
…そんなことを父親も…ましてや佑炎の母親が許すとは到底思えなかった。
戸惑う浩藍の白い手を、いつになく強引に、佑炎は握りしめた。
『…藍と一日だって離れたくないんだよ。
…お前がいない日々なんて…もう想像ができない…』
まるで愛の告白のような狂おしい言葉と共に、その手に口唇が押し当てられた。
『…兄さん…』
…火傷しそうに熱い口唇だった…。
初めて、身体に電流が走るような衝撃を受けた。
佑炎が情熱の眼差しで浩藍を見つめる。
『…藍…。
…傍に、いてほしい…』
…僕は…お前が…
けれどその言葉は、音もなく現れた無機質で重々しい執事の声によってかき消された。
『…佑炎様、浩藍様。
旦那様がお呼びです。
書斎にお越し下さいますように…』
小柄だった背はすらりと伸び、手足は長く、小さく透き通るような白い貌は更に端麗に整い…まるで天女のような優美さだと、学校でもフランス租界でも評判となっていた。
背を覆う黒髪は艶やかな絹糸のようで、柔らかな曲線を描く柳眉、切長で涼やかな瞳、形の良い鼻梁、口唇は山査子の果実のように匂い立つ瑞々しさを湛えている…。
…それらは、兄の佑炎がうっとりと唄うように、浩藍の美貌を褒め称える言葉であった。
佑炎は相変わらず浩藍に優しく、まるで恋人のように甘やかに溺愛していた。
同時に、いよいよ英国留学への日取りも決まり、彼は憂いを秘めた表情をするようになった。
『藍を置いてゆきたくないな…。
藍も来ないか?
お父様には僕から話すよ』
『…でも…』
…そんなことを父親も…ましてや佑炎の母親が許すとは到底思えなかった。
戸惑う浩藍の白い手を、いつになく強引に、佑炎は握りしめた。
『…藍と一日だって離れたくないんだよ。
…お前がいない日々なんて…もう想像ができない…』
まるで愛の告白のような狂おしい言葉と共に、その手に口唇が押し当てられた。
『…兄さん…』
…火傷しそうに熱い口唇だった…。
初めて、身体に電流が走るような衝撃を受けた。
佑炎が情熱の眼差しで浩藍を見つめる。
『…藍…。
…傍に、いてほしい…』
…僕は…お前が…
けれどその言葉は、音もなく現れた無機質で重々しい執事の声によってかき消された。
『…佑炎様、浩藍様。
旦那様がお呼びです。
書斎にお越し下さいますように…』