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あの海の果てまでも
第1章 運命の舟
大紋の大きな手が、ぴくりと動き…更に強い力で握りしめられた。
そのまま、強く強く抱き竦められる。
暫く無言で抱き合ったのち、暁は春馬の逞しい胸に貌を埋めたまま告解するように語り始めた。

「…僕は…絢子さんに取り返しのつかない酷いことをしてしまった…。
僕は人でなしです。
…もうすぐ…赤ちゃんが生まれるのに…。
その赤ちゃんから父親を…春馬さんを取り上げてしまった…」

春馬がゆっくりと腕を解き、暁の貌を両手で覆い、瞳を合わせる。
…苦渋に満ちた眼差しの中に、強い真摯な意思の光があった。
「暁。
君のせいではない。
すべての責任は僕にある。
君には何の咎もない」
「それは違います!」
否定する暁に、春馬はゆっくりと首を振る。
「違わない。
僕が強引に君を奪い、連れ去った。
君をずっと忘れられなかったから、愛していたから、君にまた出会った瞬間に箍が外れてしまった。
いや…。自分から壊し、捨て去ったんだ。
何もかも。
妻も、やがて生まれてくる子どもも、職業も、地位も、家も何もかも。
そうしたかったのだ。
自分勝手で無責任なのは僕だ。
…僕こそ君にすべてを捨てさせた。
礼也も、家も、仕事も、未来も、何もかも…。
君はやっとさまざまなものを手に入れたというのに。
それを知っているのに。
君を…諦められなかった。
だから、連れ去った。
悪魔は、鬼は、人でなしは僕だ。
僕だけだ。
君ではない。
だから、君は何も悪くない。
地獄には、僕一人でゆく」

…だから…
仄かに哀しげに、男は微笑んだ。

「それまではそばに居てくれ」



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