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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
只ならぬ発言を聞いた佑炎が、果敢に浩藍を背後に庇う。
『何を仰っているのですか?
戯れ言にしても悪趣味過ぎます。
お父様、これは一体…』

『戯れ言ではない』
永明の低い声が書斎に響く。

『浩藍は、ミラボー氏のもとへ養子に出す。
今夜、ミラボー氏はわざわざ迎えに来てくださったのだよ』

浩藍は耳を疑った。
…養子?
なぜ、自分が見知らぬフランス人のところに養子に出されるのだろうか…。
この男の嫌らしい眼差しから、正当な養子とも思えない。
訳の分からない不穏な感情が胸に溢れ出す。

佑炎は一瞬息を呑んだのち、永明に詰め寄る。

『浩藍を養子に⁈
何を馬鹿なことを…!
浩藍はお父様の大切な息子ではありませんか!
だからわざわざ日本から呼び寄せ、大切に育てて来られたのではありませんか!!
それを見ず知らずの外国人の元に送るなど…。
…それではまるで…』

永明はざらついた声で冷たく笑った。
『…そうとも。佑炎。
浩藍はミラボー氏の男妾…男娼として売られてゆくのだ。
…私を裏切り、男と逃げ出した女の落とし前を付けてもらう為に…な。
菊乃は最低の愛人だった。
貌だけが取り柄の実に愚かな女だった』
永明が浩藍を見下ろす。

『あれが残したもので唯一価値があるものはお前だけだ。
だから私はお前に手間と金を掛け、お前を超一流の男娼に育て上げたのだ。
…いくつもの外国語を操り、優雅にダンスを踊れる美しく嫋やかな娼婦…。
フランスの貴族たちは男色の悪癖を持つものが多い。
お前の値は、好事家の中でも上がる一方だったよ。
誰もがお前を欲しがっていた。
一番高値をつけたのが、ミラボー氏だ』  

ミラボーが芝居がかった大仰なお辞儀をしてみせた。  

浩藍は驚愕の余り、言葉を失った。
身体が強ばり、金縛りにあったかのように身じろぎすら出来なかった。

不意に…いっそ優しいような口調で永明は残酷な言葉を、浩藍の白い耳朶に囁いた。

『…お前はあの淫売の母親の代わりに、売られてゆくのだよ。
この好色で悪名高い男色家にな。
可哀想に…。
…恨むなら、お前の母親を恨むがよい』



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