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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
『そんな馬鹿げたこと、絶対に許しません!』
佑炎が叫んだ。
普段決して声を荒げることはない彼が、父親に対して激しい言葉を使うのは初めてだ。

『お父様の思い通りにはさせません!
僕は浩藍を離しません!
養子になんて行かせない!
決して!』
佑炎はそのまま浩藍の肩を守るように抱き寄せた。
『行こう。藍。
お前をどこにも行かせないよ。
安心して』
『兄さん…!』

永明は鼻で笑った。
『やはりお前も浩藍を不埒な眼で見ているのだな。
半分血の繋がった兄弟だというのに?
…さすが、これは淫売の息子だ。
男を誑かす淫らな血が流れているのだろうな…。
お前はこれの毒気に当てられたのだよ』

永明の言葉に、佑炎はぎょっとした。
『お父様!何を仰るのですか!
僕は藍を弟として…』

『…ひとは自分の禁忌や淫欲には気づかないふりをするのだ。
お前は本当は浩藍を自分だけのものにしたいのだ。
…ミラボー氏とどこが違うというのか?
ましてや血の繋がった兄弟同士だ。
なんと穢らわしい、神をも畏れぬ所業なのだ。
私は我が息子にそのような罪を犯させる訳にはいかない。
…佑炎と浩藍を部屋に連れてゆけ。
逃げ出さぬよう監視を怠るな』

執事の背後から屈強な下僕がわらわらと現れる。
あっという間に、二人は下僕たちに腕を掴まれ、羽交い締めにされた。

そのまま部屋から連れ出される浩藍に、佑炎が叫ぶ。
『藍!
離せ!藍をどこに連れてゆくんだ!』

『兄さん!』
悲痛な声を上げる浩藍の前に、ミラボーが立ちはだかる。
男の大きな手が、浩藍の白い顎を無遠慮に掴む。
その透き通るように白い貌を、欲望の眼差しで見回し、うっとりとしたため息を吐く。

『…ああ、可哀想に。
そんなに泣くことはないのだよ。
…これからは私が誰よりも可愛がってあげるからね。
…そう、明日からじっくりと…時間をかけて…。
まだ青く未熟な果実の味は如何ばかりだろうか…。
想像するだけで興奮するよ…』
男の野卑な高笑いが空気を震わせる。
藍は恐怖と絶望感の中、崩れ落ちる。

…遠くから、自分を呼ぶ声を聴きながら…。





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