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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
張が巨大な貨物船のタラップを駆け上がっていくのを車窓越しに見ながら、佑炎は浩藍を抱き寄せる。

『…倫敦に行ったら、まず友人の家を訪ねよう。
彼は数年前にたまたまフランス租界で知り合ったまだ若い英国人でね。
少々変わっているけれど、とても優しくて賢くて頼り甲斐あるひとなんだ。
…リージェントパークという美しい公園の近くにある多国籍の人々が住む小さな街があって、そこで自由気ままに骨董屋を開いているらしい。
普段は世界中を旅して骨董品や美術品を集めているそうだ。
留学で倫敦に渡ったら真っ先に訪ねる約束をしていたんだ。
だから、昨夜電報を打った。
僕たちのことも打ち明けた。
彼なら喜んで僕たちを受け入れてくれる』

『…兄さん…』
…随分風変わりなひとだな…と思ったが、それが頼もしくも感じた。
少なくとも見知らぬ異国で頼れるひとが一人はいるのだ。
浩藍はほっとした。

緩む浩藍の白い頬を、佑炎は微笑いながら柔らかく抓る。
『心配しなくて良いよ。
浩藍のことは僕が守る。
お前はまだ子どもだ。
子どもは大人に守られて大きくなるんだからね。
…僕は倫敦に行ったら、とにかく働く。
働きながらバイオリンの稽古に励む。
一流のバイオリニストになるために必死で努力する。
そうして…いつかお前と一緒に世界中の国を旅して、演奏をしたい。
お前に世界中の美しいものを見せて廻りたいんだ』

『…兄さん…!』
浩藍は思わず佑炎の引き締まった胸にぎゅっと抱き付く。
嬉しくて、涙が溢れてくる。

…こんなにも自分を思ってくれるひとは、世界中にひとりしかいない。
たとえ、兄でも自分は彼を愛している。
このひとと一緒なら、どんな場所でもどんなことでも乗り越えてゆける…。
そう心から思えたのだ。

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