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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
『兄さん!兄さん!
いやだ!いやだよ!兄さん!』
泣き喚きながら、動かなくなった佑炎を揺さぶる。
…こんな形で、兄を喪ってしまうなんて…!
嘘だ…嘘に決まっている…!
まだ何も伝えてない。
どれだけ自分が兄を大好きなのか。
どれだけ愛しているのか。
兄の温もりや薫り…。
優しい言葉、笑顔、仕草…。
それらがどれだけ自分を包み込み、癒やしてくれていたのか。
まだキスだって数えるほどしかしていない。
愛しているのに!
愛しているのに!
この世の愛いの全ての終わりと崩壊に、混乱し泣きじゃくる浩藍の肩を強く掴む者がいた。

『浩藍様。
早くあの船にお乗りください。
もうすぐ出港します』
張が強い眼差しで見つめていた。

貨物船の甲板から、船長らしき男が促す声が響く。

『…そんな…!
僕一人で英国に行くの?
嫌だ。そんなの嫌だよ。
兄さんを置いてゆくなんて…。
兄さんが居ないのに英国に行って何になるの?
もう、どうだっていいよ。
どうなってもいいよ!』

激しく首を振る浩藍に、張が初めて感情を露わに叱りつける。
『貴方様は佑炎様を犬死させるおつもりですか!』

浩藍はびくりと肩を竦める。
張がまるで親身な肉親のように、真摯に諭す。
『佑炎様のお言葉をお忘れですか⁈
貴方様には自由になって欲しいと。
幸せになって欲しいと。
それが佑炎様の最後の願いなのですよ!』

『…張さん…』
涙が溢れ滴り落ちる。
膝に抱く佑炎の青白く…けれどどこか安らかな貌をそっと濡らした。

張が浩藍から佑炎を恭しく抱き取る。
『あとは私にお任せ下さい。
佑炎様の尊厳は私が命に代えてもお守りいたします。
浩藍様は英国に行くのです。
そうして、佑炎様の分までお幸せにならなくてはなりません。
それが貴方に課せられた運命です』






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