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あの海の果てまでも
第3章 新月の恋人たち 〜朱浩藍の告白〜
『…おい。いつまでそこに居るつもりなんだよ』
デッキの壁に凭れ、うとうとしていると頭上から声が降ってきた。

重い瞼を開く。
…そこには仏頂面をしたまだ年若の少年のような船員が立っていた。
歳の頃は、浩藍と同じくらいだろうか。
まだあどけなさが残るが、しかしその表情や体つきは大人びていて、一人前の船員に見えるほどだ。

『部屋に入れって船長が』

浩藍は首を振る。
…入りたくない。
せめて、外にいたかった。
この夜風には、空気には、兄の魂が漂っているかもしれないのだから…。
この中空は、天国と繋がっているのだから…。
…そう信じて、甲板に留まりたかったのだ。

そんな浩藍の胸の内を、知ってか知らずか、その船員は怒ったような貌をしながら、手巾に包まれたものを突き出した。

『じゃあ、食え。
ずっとこんなとこに座り込んで。
何も食わなきゃ、死ぬぞ』

浩藍は力なく首を振り、俯いた。
『…死んでもいい…』
『は?』
『死んでも構わない。
兄さんが居ないのに、生きていてもしょうがない。
外国で一人…生きていたくない』

…暫しの沈黙ののち、船員は口を開いた。

『あんた…そんなんで、佑炎さんが喜ぶとでも思うのか?』

船員の口から佑炎の名前が出たことに浩藍は驚き、眼を見張った。

『…なんで…』

船員は険しい表情を崩さずに、語り始めた。

『…俺はあんた達が通っていたジャンヌ・ダルクスクールで小間使いとして働いてた。
そこであんたと佑炎さんを見たことがある』






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