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あの海の果てまでも
第1章 運命の舟

次に暁が眼を覚ました時、大紋は船室にある机に向かい、書き物をしていた。
かりかりと羽根ペンを滑らせる規則的な音が、聴こえる。
…真っ白なワイシャツに包まれたその広い背中には、確固たる決意のようなものが漂っていた。
ゆっくりと寝台から起き上がり、そっと声を掛ける。
「…何を書いているんですか?」
大紋は驚くわけでも隠すわけでもなく、振り返ると静かに微笑んだ。
「…起きたの?
朝食を頼もうか?
まずは熱い珈琲かな。
紅茶がいい?」
「何も要りません。
それより…」
大紋はゆっくりと立ち上がり、寝台に腰掛けた。
…暁の白い頬を愛おしげに撫でる。
「…日本の友人の弁護士に手紙を書いていた。
僕の家屋敷、財産それらすべてを絢子に譲渡する旨の…ね。
名義の書き換えの依頼だ」
暁は眼を見張る。
「…春馬さん…」
大紋は淡々と…けれど微かに苦渋の色を滲ませつつ続ける。
「…絢子はきっと、実家には戻らないだろう。
あの家で子どもを産むに違いない。
それならば、彼女が何不自由なく、今後のことを憂うことなく豊かな生活と育児が出来るよう、早急に行動しなくては…と思ってね。
…もう金銭的なことしか彼女にしてやれないのが、とても申し訳ないが…。
けれどこれが、今僕にできる精一杯の誠意だ」
かりかりと羽根ペンを滑らせる規則的な音が、聴こえる。
…真っ白なワイシャツに包まれたその広い背中には、確固たる決意のようなものが漂っていた。
ゆっくりと寝台から起き上がり、そっと声を掛ける。
「…何を書いているんですか?」
大紋は驚くわけでも隠すわけでもなく、振り返ると静かに微笑んだ。
「…起きたの?
朝食を頼もうか?
まずは熱い珈琲かな。
紅茶がいい?」
「何も要りません。
それより…」
大紋はゆっくりと立ち上がり、寝台に腰掛けた。
…暁の白い頬を愛おしげに撫でる。
「…日本の友人の弁護士に手紙を書いていた。
僕の家屋敷、財産それらすべてを絢子に譲渡する旨の…ね。
名義の書き換えの依頼だ」
暁は眼を見張る。
「…春馬さん…」
大紋は淡々と…けれど微かに苦渋の色を滲ませつつ続ける。
「…絢子はきっと、実家には戻らないだろう。
あの家で子どもを産むに違いない。
それならば、彼女が何不自由なく、今後のことを憂うことなく豊かな生活と育児が出来るよう、早急に行動しなくては…と思ってね。
…もう金銭的なことしか彼女にしてやれないのが、とても申し訳ないが…。
けれどこれが、今僕にできる精一杯の誠意だ」

