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誰も知らない君の顔
第6章 恍惚
月曜日の社内はどこ行ってもバタバタと人の往来が激しい。
たまたま乗り合わせたエレベーターはすし詰め状態で、彼女は追っかけの社員に守られるように乗っていた。

「結奈ちゃん苦しくない?」

「大丈夫?」

馬鹿かこいつら?金と権力持ってる人間にだけ尻尾振る奴って本当マヌケ。

俺は12階で降りる。人を押し退けようやく降りた時何気に振り返ってエレベーター内を見ると、守られている結奈ちゃんと目が合い、そして扉が閉まった。

偶然合った感じではない。明らかに俺を見ていた。
きっと色々な恐怖に縛られてるんだろう。弱みを握られ、立場的に弱い彼女を考えると可哀相だが・・・もう少し遊ばせてもらおう。

今まで付き合った女とは違う“何か”。癖になると言うか、あの感覚がどうしても忘れられない。
滑らかな肌と、熱を帯びた吐息。俺を見上げた時の表情。何を思い出しても身体の芯を疼かせる。

そんな事ばかり考えながらの仕事は当然はかどらない。頭の中を支配する彼女で落ち着く事すら出来ない。

「昨日の今日だしな~」

一度躊躇うがやはり送ってしまうメッセージ。

《15時22階会議フロアー、南側給湯室》

デカい会議室で占めるフロアー階がある。使われない時は誰も近寄らないが“穴場”として裏では有名。そこに呼び出しをしたが、昼を過ぎても返事が来る事はなかった。
平社員の俺以上に忙しい重役だ、もしかしたらメールすら気づいてないかもしれない。あるいは無視してるか・・・。
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