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夜来香 ~若叔母と甥の危険な関係~
第16章 アトリエ
僕は改めてアトリエの部屋を見渡した。

【部長って…美大志望なのかな?…】

先輩の描く絵が僕達一般の部員とはレベルが違うのも頷けた。
部屋の隅にイーゼルに乗ったキャンバスが3組あった。
白い布が被せられている。
なんとなくそれに近づいていく。
キャンバスの角に触れると、白い布を摘まんだ。

【部長の絵…どんなだろう…】

静かに布を横にずらしていく。
背景は幾重にも重ねられた絵の具がまるで炎のような色を現していた。
もう少し横にずらす…。

【人?…女性の手…】

まっすぐな布の端に沿って視線を落とした。

【脚…もしかして裸婦画?…】

「だめだすよ…ひとの作品を勝手に観るなんて……」

背後に先輩が立っていた。
僕は慌てて布を戻して、振り返った。

「すみません…部活じゃない部長の作品…どんなのかなって…つい…」

「それは私の作品じゃないんです……たまに観て思い出すんですよ……」

先輩はたまにドキッとするほど大人びた表情を魅せる。
今もそうだった。

【思い出すって何を?…】

聞いていいのか迷うと…

「立ち話もないでしょう…ソファに座ってください……」

と声をかける。
僕は頷き、キャンバスから手を離した。

「私のことはどうでもいいですよね…今日は藤沢くんの文化祭の作品についてのお話なんですから……」

先輩は僕がソファに座ると椅子を両手で持って僕の前に座って話し出した。

「はい…ありがとうございます…それで具体的にはどんなお話なんですか?…」

お盆明けに家に来て…それしか聞かされていない。
モデルでも提案してくれるのかと勝手な想像もしていたが全く解らない。

「具体的?…そうですね……どうしましょう……私はただ、藤沢くんの描く人物画が観てみたくて……」

【いやだから…なんでここに?…】

僕は的を得ない先輩の言葉に戸惑うしかない。

「はぁ…」

間の抜けた相槌を打った。

「そうだ…藤沢くんのスケッチブック見せてください……持って来てるんですよね……」

【しまった…なんで持ってきた…この前拾われて見られたと思って気まずい思いをしたのに…それに、あの続きはとても見せられたものじゃないのに…】

「あまりというか…ぜんぜん人物画は描いたことがなくて…だからやっぱり風景画にしようかと…」

なんとかスケッチブックを見せない言い訳を探していた。
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