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夜来香 ~若叔母と甥の危険な関係~
第16章 アトリエ
先輩は僕に向かって真っ直ぐに座っている。
軽く膝の上で手を重ねて、膝小僧を見せて、白い細い脚を下へと伸ばしている。
ピンと張った背筋にブラウスを持ち上げる適度な膨らみ、
本当にこの人は綺麗な人なんだなと思わせる。

「あら?…部長命令ですよ……それでも見せてもらえないんですか?……」

先輩もこんな顔をするんだ。
悪戯な笑みを初めて観たかもしれない。

【でも、観られたら…変に思われるよな…】

部活の後輩が断りもなしに自分の横顔を描いていたなんて…なんだかドン引きされそうに思えた。

「後輩がどんな絵を描いているのか…確かめるのも部長の勤めなんですよ……」

【部長…やっぱりあれが自分だって解って言ってるよな…】

そこまで言われて断れる筈もない。
僕はトートバッグからスケッチブックを取り出し、差し出すように手渡していく。

「ありがとうございます…どれどれ……」

先輩はスケッチブックの紐を外してパラパラと捲っていった。
明らかに目的のモノを探している捲り方だった。
お目当てのページを見つけたのだろう。
先輩の手が止まった。

楽しみにしていた表情が一転して曇るのが解った。
小さな溜め息をつかれてしまった。

「この前は横顔のデッサンだけでしたよね……」

心なしか声のトーンも下がって聞こえた。
僕は答えに困って、何も言えなくなって俯いてしまう。

「…てっきり私を描いてくれていたのかと思っていたのに……誰ですか?…これ……」

心臓が鷲掴まれたように萎縮していた。

「すみません…あの後、部長が帰ってしまわれたので近くにいた部員を視て描いてみたんですけど…」

「そうなんですか……じゃあ、やっぱり私を描こうとしてくれていたんですね……」

【あれ?…声が戻った?…】

先輩の目を見れず俯いていた僕は先輩に視線を戻した。

美人は表情があまり読み取れない、叔母もそうだ。
でも先輩はなんだか微笑んでいるように思えた。
どうやら引かれてはいないことが解って、ほっとしていた。

「でも……これ私じゃありませんよ……」

「はい…だから下は別人なんです……自分でも違うなって思って…途中で描くのを止めてしまって…」

先輩は黙ってしまった。
今度は考え込んでいるように思えた。
こんなに表情を変える先輩はすごく新鮮に思えた。

「やっぱり人物画にしましょう……」


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