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夜来香 ~若叔母と甥の危険な関係~
第16章 アトリエ
唐突に先輩が口を開いた。

「え?…どうしたんですか急に…」

「…嬉しかったんです……藤沢くんが私を描いてくれてると思っていたので……私をモデルに描いてくれたのは二人目ですから……」

「は、はぁ…」

全く意図が読めなかった。

「そうだ…少し待っていてください…すぐに戻りますから……」

「え?…え、部長?…」

先輩はスケッチブックをテーブルに置くと、壁の向こうではなく入ってきたドアから出ていってしまった。
閉じられたドアの向こうに小走りなパタパタとした音が聞こえた。
それはなんだか嬉しそうな音に思えた。

【どういうこと?…】

僕は部屋に取り残され、また観かけた絵に視線を向けた。
先輩の言い方も気になったが、だめと言われたのだ…やめておいた。

少ししてドアをノックする音がした。
僕はドアの方を見た。
少しの間を置いて、またノックされた。

【部長…ここは部長の家ですよ…】

そう思いながら僕は返事をして、ドアが開いた。

「藤沢くん…お待たせしました……」

僕は驚いたように先輩を見つめた。

「なんで?…どうしてそんな格好…」

白い半袖のブラウスに膝上のプリーツスカート…白いソックス…先輩は学校の制服に着替えていた。

「なんでって…藤沢くんは制服姿の私を描こうとしたんですよね?……だったらこの格好の方がいいかと思ったんです……」

「それはこの前は学校だったから…」

先輩の足許は着替える前のルームシューズのままだった。
壁際の棚へと近づいていく。

「確かここに……ありました……これで完成ですよ……」

手にしているのはローファー。
ルームシューズからローファーに履き替えると…

「構図はどうしましょうか?……さっきのデッサンみたいに斜め後ろからがいいですか?……」

先輩はどこに立とうかとキョロキョロしている。

「ま、待ってください……僕はまだ部長を描くとは一言も…」

板張りの床にローファーのコツコツとした音が鳴る。
先輩が僕の目の前に来てしゃがみ込んだ。
覗き込まれるように見上げてくる。

「もう考える時間なんてありませんよ……私は相談にのると言いましたよね……結果、私が藤沢くんのモデルになるという答えを導いたんです……藤沢くんは私がモデルでは不足なんですか?……」

【そんな言い方…ズルいですよ…】

僕はなかなか答えられなかった。
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