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夜来香 ~若叔母と甥の危険な関係~
第19章 懺悔
声をかけてきた男が近づいてくる。
私を羽交い締めにする男はかなり大きく屈強のようだった。
身を捩ってもびくともしない感じに危機感が増していく。

「住宅街だよ…騒がないでよ…今ちゃんと呼び止めた理由教えてやるから…」

【ヤバい、ヤバい、ヤバい……】

自由になるのは脚だけ。
私はパンプスの踵で男の足を思いきり踏んだ。

「いってぇっ…」

拘束する腕の力が緩んだ。
その隙に私は駆け出していく。

「おいっ、逃がすなって言っただろっ…」

「すんません、兄貴…」

そんな声が背後で聞こえる。

「さっさと追えよ…」

その声に路地を曲がる。
必死に逃げた。
マンションはすぐ近くだったが私はとにかく走った。
なるべく角を曲がって…息が上がると電柱に凭れかかる。
辺りは静かで、息を整えながら様子を伺う。
誰かが追ってくる気配はなかった。

「はぁっ……なんだったの……」

とにかく今のうちに帰ろうと足早にマンションへと向かった。
マンションの前には誰かいる様子もない。
キョロキョロとしながら入っていく。
外を見ながらオートロックを解錠して…エレベーターに乗り込むと、私はようやく緊張を解いた。

部屋に入ると灯りを点ける。
ソファに崩れるように座り込み、また深い息を吐いた。

【たしかに私の名前を呼んだ……】

過ったのは飯田健人の顔だった。
あいつからの連絡はあれからない。

【LINEをブロックしてあるから?…その腹いせに誰か雇った?…いや、どんなにませたガキだとしてもそこまでする…できるのだろうか?……】

私はそんな自問自答を繰り返す。
5分…10分はソファから動けなかった。
嫌な汗が冷えてきた。

【シャワー浴びなきゃ……】

カーテンはレースのままだった。
遮光カーテンを閉めて私は買ってきたビールを冷蔵庫に片付ける。
ついでにミネラルウォーターをがぶ飲みして浴室へと向かっていった。

「はい、5階ね…住居特定……おい、帰るぞ…小野…」

「あれ?…犯すんじゃないの?…」

「アホか…お前が逃がしたんだろうが…」

「そっか…すんません…」

小野と呼ばれた男はボリボリと頭を掻いた。

【ようやく見つけた…なかなか藤沢くん家に来ないからどうしようかと思ったじゃないか…待ってろよ…神埼結奈…】

岩田亮治は夏の現場を終えてこの街に戻ってきていた。
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