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夜来香 ~若叔母と甥の危険な関係~
第1章 予感
知ったばかりの知識は靄のかかった映像となり僕の夢に出てくるようになった。
 
叔母が妖艶な笑みを浮かべていた。
吐息が乱れ僕の名前を何度も呼んでいた。
その夜、僕は初めて夢精していた。

叔母ももう三十を越えたはずだ。
最近仕事を辞めたことも母から聞いている。
艶のある、どこか濡れたような声色…今日も美しい叔母が微笑みかけてくれる。
昔は平気で抱きつけたのに…恥ずかしさを隠そうと短い言葉しか出てこない。
ダイニングルームへと向かう叔母の後ろ姿を盗み見ていた。
 
私は姉の差し出すコーヒーを口にして、ほっと息をついた。

ダイニングテーブルはカウンターキッチンに対して垂直な向きに置かれていた。
即ち、繋がるリビングからも私と姉は横向きになるよう向かい合って座っていた。
リビングの陽翔はダイニングに背を向けたロングソファに座っていた。

「それで?…今日はどうしたの?……」

私は姉に呼び出しの用件を尋ねた。

「うん、そうね……ねぇ?…結奈って勉強できたじゃない?……」

それは正しい評価ではなかった。
私が勉強し出したのは高校二年生の終わり頃からであって、それまでは赤点常連だった。

「いや、私が遊びまくってたのお姉ちゃんだって知ってるでしょ……」

「へ?…でもいい大学入ったじゃないの?…なんで仕事辞めちゃったの?……」

【おいおい…うちの姉はどんな思考回路をしてるんだ?……】

ちょっと呆れ顔でリビングへと目を向けた。
背凭れから見えていた陽翔の後頭部がいない。
少し視界の縁に違和感を感じると、どうやらソファに寝転がったらしい。
低い肘掛けを枕にして仰向けにスマホを弄っていた。

「姉さん…私が辞めたことと今日の用事は関係あるのかな?……」

「うーん…あると言えばあるし…ないと言えば…どうだろ?……」

姉は相変わらずだった。

「まぁ、仕事を辞めた理由は前に話したからいいよね…憶えていないみたいだけど……」

皮肉混じりに返しても姉はまったく動じない。

「結奈…今は暇なんでしょ?……」

確かに今は悠々自適な生活を送っている。
どうもこれまでの会話が繋がらない。
 
そんな時、陽翔が…ぷっと笑いを溢したのが聞こえた。
陽翔も自分の母親の天然っぷりがよく解っているらしい。
 
私は再び陽翔へと視線を向けた。
陽翔は肘掛けに頭を預けたまま私を視ていた。
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