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ジャスミンの花は夜開く
第6章 誘惑
「おお、楠さん。こんなところで会うとは、また偶然じゃな。たしかアルバイトの面接だったらしいが、どうじゃった?」
「あっ。お…おかげさまで、採用されまして。明日から仕事です」
「ほう!それは良かったのぉ。楠さんは運に恵まれとるな!ガッハッハ!」


スーパーの入り口の前で大家と出会ったことが恨めしかった。
すぐさま帰宅して火照った体を鎮めようと思っていたのに…。
親子、いや、孫ほど年の離れた女性と親しげに話すこの男とは一体誰だろうという視線が、茉莉花にも突き刺さる。


たしかに運がいい。
茉莉花自身もそう思った。
偶然出会ったアパートに急な空きが出て暮らせることになったし、アルバイトだって店長が同郷ということで話がトントン拍子に進んだ。


「そうじゃ!今夜はお祝いをせんとな。引っ越してきた当日に仕事が決まるとは、かなり幸せなことじゃ。儂にもその幸せをおすそ分けしてもらわんと。楠さんの好きなものをご馳走してやるわい。ちょうど買い物をしようと思ったところじゃ。一緒に寄って行かんか?」


大家から半ば強引に手首を引っ張られ、店内に連れて行かれる形になった。


「楠さんは何が好きなんじゃ?連れ合いを亡くしてから儂も料理をするようになっての。プロとまでは行かんが、大抵のものは作れるようになったんじゃよ。遠慮なしに言うといい」
「い…いえ。ご馳走だなんて、そんな…」
「ええんじゃ、ええんじゃ」


大家はそう呟きながら茉莉花の手を引き、売り場に向かった。
入ってすぐの青果コーナーで大家が言う。


「そうじゃ。今日は野菜の特売なんじゃよ。今夜のことは今夜のこととしてじゃな、野菜を共同購入せんか?お互い独り身では不経済だしの。一袋を二人で…シェア言うんか?その方が経済的じゃろ?」


大家は野菜を観察するように眺め、品定めし始めた。
しかし、その野菜がことごとく男性器を想像させるものだった。
大根、長芋、茄子、キュウリ、そしてズッキーニ。
袋を手に取り、それを茉莉花に見せつけるように目の前に持ってくる。
いやがおうにも、面接先のトイレでアイと呼ばれる女性が口に含んでいたであろう、陰茎を想像してしまう。


『イヤだもう…エッチなことしか考えられない…』


そんな茉莉花の頭の中を見透かしているのだろうか、大家はサツマイモを手に取って茉莉花に握らせた。
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