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ジャスミンの花は夜開く
第2章 入居
部屋探しの停滞が嘘だったかのように、話はとんとん拍子に進んだ。
大家との話し合いを終えた茉莉花はそれまで滞在していた格安ホテルを引き払い、実家へ戻り、上京のための最終準備を済ませた。


「8万円にしてあげてもいい」
予算から1万円オーバーだ。
1年にすれば12万円になる。
やはり茉莉花には経済的な負担がのしかかった。
そんな茉莉花の顔色を見た大家はこう提案した。


「不動産屋を通さないから礼金は掛からん。本来は敷金をいただくところじゃが、前の住民が住民だ。敷金を返す返さないのやりとりもしないまま出て行ってしまったから、あなたが…、楠さんとおっしゃったな…、継続して住んでくれていると考えれば、敷金も要らん。軽い掃除くらいはするが、ハウスクリーニングまではせん。後はお嬢さんが自分でしなさい。実は急に出て行かれて儂も困っとるんじゃ。不動産屋を通して入居者を募集すれば、それまでは家賃が入らん。ここだけの話、ハウスクリーニング代はバカ高くての。儂も払いたくはないしな。その諸々の分で月5000円引きだ。どうかね?」


大家からの提案はとても魅力的だった。
言われてみれば確かにそうだ。
敷金と礼金を合わせれば4ヶ月分の家賃が浮くのだ。
「それと、お嬢さんに言ってなかったが、うちのアパートは女性専用なんじゃ。住人は儂以外はみんな女性。安い家賃じゃから、オートロックだの何だのは付いとらんが、大家である儂がおるからの。用心棒みたいなもんじゃ」
そう言って大家は笑った。


隣の部屋は大家だし、逆の隣は女性。
都会での一人暮らしにおいて、住民がどんな人間であるのかはとても重要だ。
まだどんな人物かはわからなかったが、大家以外の隣人が女性であることは茉莉花にとって嬉しいことだった。
「男はダメ。何をするにもガサツでの。ひどいのになると酒盛りを始める。近所迷惑ったらありゃせん。昔はうちも男女の区別はなかったが、今では女性だけにさせてもらっとる」


「それと、もうふたつ条件がある。もしそれも受け入れてくれるなら7万でいい」
「ほ、本当ですか!私、何でもします!」
茉莉花は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「おいおい、お嬢さん、まだ条件を言っとらんぞ。それを聞いてから喜びなさい」
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