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そんなの聞いてない!!
第1章 ウワサ


――マジかよ……。


いくらひとけがない場所(非常階段近く)とはいえ、ここは会社内だ。
大胆にもほどがある。

こういうのが好きな男もいるだろうけど、俺には通用しないよ。
なにより、了承も得ずに勝手に人の股間を触るなんてどうかしている。
セクハラで訴えようか。

田中の手つきがいやらしいものになっても福浜のムスコが反応することはなく、田中は不満そうな顔をする。


「えぇ~、なんでぇ? なんで勃たないのぉ?」


――勃たねーものは勃たねーんだよ。


「ね、わかったでしょ? どうやっても勃たないって。ごめんね、佐藤さん」

「……佐藤じゃないって言ってんでしょ! 田中だしっ!!」


猫なで声や舌っ足らずな喋り方はどこへやら。
福浜がまたもや名字を間違えたことにキレたのか田中の口調が変わり、ムスコもすんなりと解放された。


「ああ……悪い。急にセクハラかましてくるから動揺して名前間違えたわ」


”セクハラ” という単語に田中がピクッと反応する。


「このこと、部長に報告した方がいい?」


福浜がにこっと笑いながら聞くと、田中の顔はどんどん青ざめていく。


「いや……その、急に変なことして、ごめんなさい。あ、あと、告白もなかったことに……」


顔を引きつらせながら田中が後ずさりしていく。

しおらしくなって謝罪をしてもらえたのは意外だったが、告白までなかったことにしてもらえるのはラッキーだ。
面倒なことは一つでも減らしておきたい。


「オッケー。よかったら、周りにも言っといて! 福浜はクソインポ野郎だーって」


小走りで逃げていく田中に向かって言うと


「おまえさぁ、自分で言うか? それ」


同期の市崎が呆れ顔で立っていた。


「おー、市崎。お疲れー……」


同期の中で気が合う市崎に気をゆるめて近づくと、市崎の背後に誰かいた。


「お、お疲れ様です……」


後輩の七隈が気まずそうに会釈する。
市崎同様、七隈にも聞かれていたらしい。


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