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そんなの聞いてない!!
第1章 ウワサ
金曜日の夜ということもあってクチコミが高い人気店や女性が好きそうな小洒落た店は予約で埋まっていた。
仕方なく福浜は、行きつけの店の中でも半個室があり女性客もいないこともない居酒屋へと七隈を連れてきた。
「ごめん。本当はもっといい店に連れて行きたかったんだけど……」
「いえ! ここも素敵なお店だと思います! というか、私の方こそすみません。自分から誘っておいて、どこへ行くかまで考えてなくて。リサーチ不足でした……」
しょんぼりする七隈。
真面目だなぁ。と思いながらも七隈のそういうところも好きな福浜。自然と笑みがこぼれる。
「ふっ、リサーチって。そう言われると、七隈がどんな店を選ぶのか気になるな」
「えっ」
「次は七隈が行きたい店に行こう」
「あっ……はい」
戸惑った反応をする七隈を見て、福浜は自分が大胆発言をしたことに気づく。
――待て待てっ。どうした、俺!
焦ったが、七隈が意外と嫌そうな雰囲気ではないことに安堵する。
これでもし断られていたら、このあとの時間はきっと地獄だったに違いない。
冷や汗が背中をつたうのを感じながら福浜は何事もなかったようにメニューを七隈へ渡す。
「どれもおいしいけど、特におすすめなのはごまさばかな」
「ゴマサバ……?」
「あ、知らない? えっとね……鯖の刺身が、醤油をベースにしたタレとすりごまで和えられてて、ネギやワサビなどの薬味といっしょに食べるやつなんだけど」
「うわ〜、おいしそう! 食べてみたいです!」
パッと表情を明るくする七隈。
「うん、頼もう。他に食べたいものは?」
「うーん、そうですねぇ」
「七隈って酒は飲む?」
「はい、飲みます。ビールは苦手ですけど」
「そうなんだ。なに飲むの?」
「梅酒が好きなので、ひたすら梅酒ロックです。たまにレモンサワーとか果実系のも飲みます。福浜先輩は何が好きですか?」
俺は、七隈が好き。
そう言いたい気持ちをグッと抑える。