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そんなの聞いてない!!
第1章 ウワサ
「実は……俺は酒自体が苦手。ビールなんてもってのほか」
「えっ、そうなんですか!?」
福浜の告白に驚く七隈。
酒が苦手なんて家族以外知らないことを打ち明けたのは、七隈に自分のことを知ってほしいと思ったから。
「うん。でも、誰にも言ってないから内緒ね」
人差し指を口前に立てて "シー" のポーズをすると
「内緒……わかりました」
ゆっくりとうなずく七隈。
何でビールが苦手なのか、誰にも言ってないことをなぜ七隈には話したのか、話したくせにどうして内緒なのか。
いろいろと疑問はあるだろうに七隈は根掘り葉掘り聞いてこない。
ただ単に俺に対して興味がないのか、あるいは気を遣ってくれているのか。
どちらにしても今は聞かれないことにホッとしている。
「そろそろ注文しようか」
「はい。お腹すいてきました」
「うん、俺も。さっきからすげぇ腹鳴ってる」
「知ってます。聞こえてました」
クスクス笑う七隈に胸をキュンとさせながら福浜は店員を呼んだ。
***
「え……おいしい。ごまさば、めちゃくちゃおいしいです!」
ごまさばをひとくち食べた七隈が興奮気味に目を見開く。
おいしいと思ってくれて嬉しいし、気を遣ってないことも表情からわかって福浜は口元をゆるませた。
「おお、よかった」
「さばが……よく脂がのってる? って言うんですかね。プリプリで歯ごたえがあって、きっと普通の刺身としても十分おいしいのに、この醤油ベースのタレ! これを考えた人、天才ですね!」
「うん、天才。しかもネギとワサビもいい仕事してるよな」
「確かに! ……実は魚より肉派なんですけど」
「あ、そうなん?」
「はい。でも、ごまさばのファンになっちゃいました。こんなおいしいもの教えてくださって、ありがとうございます!」
七隈がにこっと微笑む。
業務に差し支えない程度のコミュニケーションをとる七隈だが、いかにも愛想笑いです。といった表情ばかり目にしていただけに、無理をしていない自然な笑顔が見られて胸がジーンと熱くなる。